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次世代エアモビリティと地形解析技術が拓く地平 | Brain Pool Tech x Skyscape

2022/12/07

新しい技術の到来と地形環境分析の重要性の高まりに伴い、高性能ドローンや高度な技術を持つドローンオペレーターは、あらゆる業界で土地管理に必要な高品質データの収集と分析を可能にしてきました。
SKYSCAPE株式会社(旧社名: DroNext、以下「SKYSCAPE」)とBrain Pool Tech Pte. Ltd.(以下「Brain Pool Tech」)は、高性能ドローンを使用した地形調査と土地の変化観測に特化した協業を進めています。協業から生成されたデータとソフトウェアは、環境変化の予測機能のほかに、農業や環境、土地管理機関をはじめとする多くのステークホルダーが受ける可能性がある日々や季節ごとの影響へのサポートを提供しています。
今回のインタビューではBrain Pool TechのCullen Owens氏、SKYSCAPEのAsa Quesenberry氏にお話を伺いました。


Writer : Yoshiko Butler


Translated by Ai Fujii, Marketing/Communications Intern


Asa Quesenberry

Founder

2010年初頭からUAV(ドローン)業界でドローン技術者として従事。2018年に日本に生活拠点を移し、2019年に大阪でSKYSCAPE株式会社を設立。


Dr. Cullen Owens

CBO, Co-founder

2019年に、シンガポールでKai Voges氏とともにBrain Pool Tech Pte. Ltd.を設立。エラスムス・ロッテルダム大学で学び、神経科学でPh.Dを取得。持続可能な社会にドローンを統合した高性能なインサイトやIoT、AI技術を提供することをミッションにBrain Pool Techを設立。


日本とシンガポールを跨ぐパートナーシップ

ーーご自身と会社について簡単にご紹介いただけますか。

Asa氏:

私はSKYSCAPE株式会社のファウンダー兼CEOであり、SKYSCAPEは高性能エアモビリティ(AAM) の価値を社会、産業や個人に提供することのに特化した企業です。
当社は3つの部署から構成されています。1つ目はオペレーターチームで、航空・水中ドローンのパイロットとオペレーターが、全国のクライアントにドローン技術を用いたデータ収集サービスを提供しています。2つ目のコンサルタントチームは、海外企業に日本のエアモビリティ市場参入に必要な情報やリソースを提供するほか、日本企業のグローバル進出を支援しています。3つ目はバーティポート(垂直離発着場)というエアモビリティのインフラ設備の開発チームです。これは長期的な目線で開発を進めており、今後の主要な資金使途でもある分野です。バーティポートは、全自動ドローン配達を含むエアタクシーの開発や、統合されたドローンによるソリューションの提供といった、長期的なサービス支援を行うには欠かせないインフラ設備です。

Cullen氏:

私は共同設立者兼CEOとして、2019年にBrain Pool Techを設立しました。我々のゴールは、地理照合データをもとに多様な業界にインサイトを提供することです。広範囲エリアの地図を作成し、土地の開発状況を追跡・分析するほか、テクノロジーの統合を通じてその土地の「実生活」に関するインサイトを提供しています。例えば農業分野では、マルチスペクトルセンサーを用いて大規模な作物地帯を分析し、作物の健康状態への理解を促進する活動を行っています。

我々は多様なオプションを統合したSaaSを提供しており、土壌センサーや気象観測所のデータなどを用いた土地の監視が可能です。また、最終的には予測機能の搭載を目指しています。農業が、現在気候変動の影響を最も受けている第一次産業の一つであることから、この予測機能の必要性を強く感じています。

SKYSCAPEとは、日本国内で特に緊急度が高いとされている環境問題について取り組みを進めており、梅雨に洪水災害が頻発する地域や地滑りのリスクがある海岸付近の険路などの調査を行っています。SKYSCAPEがデータ収集を、Brain Pool Techがデータを元にインサイトの提供を担当しており、これら機能が全て搭載されていながら簡単に利用できるソフトウェアの開発を目指しています。

ーー協業の背景について教えていただけますか?

Asa氏:

SKYSCAPEの設立後まもなくBrain Pool Techに出会えたことは非常に幸運なことでした。 Brain Pool Techは日本で実施するプロジェクトを探していたものの、当時はコロナ禍の影響で渡航が厳しく制限されており、彼らが日本でプロジェクトを進行するためのパートナーを探していたところに、共通のネットワークを通して関係性を築くことができました。この協業がきっかけとなり日本国外とのコネクションを構築することができ、いくつかの初期段階のプロジェクトの推進にも繋がったことを非常に嬉しく思っています。

Cullen氏:

今回の協業は必然的だったと感じています。弊社はソフトウェアの構築だけでなく、ドローンサービスの提供も計画しており、シンガポールを拠点に一年弱取り組んできましたが、開発の根本である地形データの収集がコロナ禍によって困難になってしまいました。SKYSCAPEは必要な設備や資格、豊富な経験を有しており、また我々の目的も理解してくれたため、プロジェクトを軌道に乗せることができました。

ーープロジェクトを進めるにあたって、どのように連携をされていたのですか?

(画像提供:SKYSCAPE)

Cullen氏:

協業当初の目的は日本の地形データの収集でした。協業プロジェクトを経て、将来的に他の地域での実施も検討しています。現在我々はパンデミックの影響を受けて、設備投資やデータ収集よりもソフトウェアの開発に資源を投入しています。

過去の協業事例に、神戸市がグランピング施設の建設を検討するにあたって行われた建設地の土砂崩れのリスク調査プロジェクトがあります。その際Asaがドローン機材を利用して地形をマッピングし、その地域の高精度の地形図を作成してくれました。その後我々が地形図のデータから傾斜を分析し、作物の健康状態と関連づけて、地滑りが発生する可能性がある箇所があるか検討しました。

以前から日本市場で我々のサービスを導入してくれるクライアントを探していましたが、SKYSCAPEが我々のサービスに興味を持ったクライアントを紹介してくれたり、Brain Pool Techがデータ収集を必要としているクライアントを紹介したりすることで、違う国にいてもパートナー関係を構築することができました。

Asa氏:

このパートナーシップでの両社の役割を一言で説明すると、SKYSCAPEがデータ収集担当、Brain Pool Techがデータ分析担当です。多くの企業が現在社内にドローンチームの導入を検討していますが、長期的な運用にはメンテナンスやトレーニング、保険や設備の維持など考慮すべき点が多くあります。ハードウェアを購入し、新しいテクノロジーを導入することは、同時にアップグレードと新製品の購入のループに入ることを意味しており、これは企業にとって大きなコストになります。そのため、我々のように一連の業務工程を一貫してサポートするサービスが支持されるようになっています。

Cullen氏:

我々の強みは正確性とスピードの他に、コストの低さがあります。我々が調査している広さの土地は、従来の調査だと約3週間を有しますが、我々は1、2日でドローンと膨大な量のデータポイントをクライアントに提供することができます。ソフトウェアに組み込まれたアルゴリズムによって、分析作業を容易かつスピーディーに進めることができています。仮に洪水リスクのある地域があれば、Asaのチームが現地に行って情報を収集し、我々が分析後データをアップロードすることで、クライアントは開発計画や施工時に注意すべきエリアを把握することができます。

Brain Pool Techが取り扱うデータは非常に複雑です。よくクライアントから「ドローンを購入したので動画を撮影したいのだが、そのデータを分析してくれないか」と言われますが、専門技術を持つ人でない限りデータ分析は決して容易なものではありません。数時間マニュアルを読んだだけでできることではないのです。データ分析を行うには自分が今どの過程にいて、何をしているかを理解する必要があります。それはプロセスでありチャレンジでもあります。これを理解しているAsa、またSKYSCAPEチームを私は信頼しており、その信頼関係があるためSKYSCAPEも我々にデータを提供してくれるのです。

ーー日本市場を重視する理由は何ですか?

Cullen氏:

現在我々は日本とオーストラリアの二つの地域の地形にフォーカスしていますが、日本市場をこれほど重視する理由は差し迫る気候変動です。日本は気候変動に対する耐性を整えることにこれまで非常に注力してきました。我々が自然災害のリスクマネジメントやリスク評価を行うにあたって、日本はそのニーズが高い理想的な拠点だと考えています。

残念ながら、環太平洋火山帯はあらゆる自然災害が発生しうる要因と言えます。我々の注力領域は地滑りと洪水で、両方の分野ですでにPoCと有償プロジェクトを実施しました。

そのほかに、我々はオーストラリアの農業にも着目しています。現地のパートナーに山火事や他に発生しうる自然災害について聞き取りを行っており、この分野についてもプロジェクトを実施できることを期待しています。

Asa氏:

私の理由はとてもシンプルで、私は日本に住んでおり、活動拠点である日本に貢献したいと考えているからです。

SKYSCAPE設立当初、特に日本市場をターゲットにする考えはなく、むしろ日本を拠点にしたいという私の個人的な思いから、日本で活動することを決めました。SKYSCAPEは私が望む人生であり、日本でこのビジネスを行うことで、より大きなインパクトを与えられると考えました。そして、ここにいる間に何か貢献できることはないかと考えたのです。

偶然にも同じ頃に日本でエアモビリティ業界の動きが活発になり始め、結果として日本は活動拠点として最適でした。

日本のエアモビリティ業界の展望

ーー日本はまだ、エアモビリティ市場に馴染みがないようですね。

(画像提供:SKYSCAPE)

Asa氏:

その通りです。ですが、私たちはそれを肯定的に捉えています。創業当初、大阪で起業することは間違いだとよく言われました。ですが、東京で起業しなければ成功しないという考え方はどうしても納得できなかったのです。

関西地方の都市部は約2,200万人の人口を抱え、GDPはスイスより大きいです。東京と同じように、ここにも必ずチャンスがあると思いました。

その約1年後、日本政府が「2025年開催の万博に向けて、大阪は国のすべてのエアモビリティプロジェクトと投資の中心になる」と発表したのです。日本政府は、この万博で国内初の商業用エアタクシーをデビューさせる予定だと公言しています。この万博があるからこそ、私たちは適材適所のポジショニングができるのです。私は今回の万博は、一般の方々への啓蒙活動として機能するのではないかと思います。

おっしゃるとおり、多くの人はエアモビリティの先進性を知りません。だからこそ今がこの市場が成長するタイミングなのです。技術や規制、インフラが整い、日々の暮らしの中で業界の真の成長が見られるようになるのは、今からだと考えています。

ーー日本の官公庁との協業プロジェクトについて教えてください。

Asa氏:

起業して間もない時期に日本の自治体と一緒に仕事ができるというのは、とても珍しい状況でした。日本では、実績やポートフォリオが重視され、信頼できる企業であることを示すことが非常に重要だからです。これらのプロジェクトは、私たちのビジネスの原型となるポートフォリオとなりました。

ネットワークを増やし、人とのつながりや関わりを大切に扱うと、適切なタイプの人たちがプロジェクトに参加する手助けをしてくれます。また私たちは、市のニーズや目標がBrain Pool Techのソフトウェアに直接適用できるものだったという幸運に恵まれました。そして、それを実現するための人脈を作ることができたという意味で、本当にラッキーでした。そのおかげで信頼関係を築くことができ、また日本での仕事に必要なさまざまな環境やアプローチについて知ることができました。中小企業や大手起業、自治体などそれぞれのプロジェクトで必要とされるアプローチはまったく異なるのです。

日本の自治体にとって、もちろん最重要事項は安全性です。そのため、プロジェクトが安全であることを確認するための多くの作業プロセスを経た結果、ついにPoCの認可が下りました。多くを学び、Brain Pool Techのチームとともに良いスタートを切ることができたと考えています。

Cullen氏:

行政機関は、将来的に間違いなく我々のターゲットになると考えています。しかし、私たちが取り組んでいるリスク評価には多方面の要因を取り入れる必要があります。

現在官公庁の関心はリスク評価よりも緊急事態への対応に集まっています。一方で、建設やエネルギー、農業などの産業は、災害が自分たちのビジネスに与える影響に関心を寄せており、先立ってリスク評価実施を考えている企業も多いです。彼らの多くは十分な資金を有していることもあるため、当社も優先度を調整しながら民間・公共部門への参入を目指そうと考えています。

Asa氏:

もちろん報酬を得たいのは当然ですが、目的は報酬を得ることではありません。特に日本では、企業と一緒に仕事ができることを示し、タスクやプロジェクトを完了させ信頼してもらうために、まずは足を踏み入れることが重要なのです。

そのため、報酬は少額だったとしても、プロジェクトに参加することで得られるメリットや価値は、その間に得られる報酬をはるかに上回るものでした。

Cullen氏:

いずれのプロジェクトも、次のプロジェクトへの足がかりとなるものでした。神戸と生駒のプロジェクトではRGBカメラを使用しましたが、熱海のプロジェクトではAsaが現地に赴き、LIDARデータやマルチスペクトルデータを収集しました。これらのプロジェクトから得られた新しいタイプのデータを分析し、新たな知見を得ることができました。また、私たちのプロジェクトについてのビデオをソーシャルメディアに投稿しています。これらの活動の中で、私たちはエアモビリティの領域で実績を築いてきました。

ーースタートアップ同士のパートナーシップにおいて直面した困難はありましたか?またそれをどのように克服しましたか?

Asa氏:

プロジェクトを進める中でお互いを理解しなければならない局面があったと思います。例えば、処理データの質を適合させる技術について検討する場面がありました。Brain Pool Techが処理できるデータの品質は高く、その点で彼らは他の企業とは一線を画しています。そのため、私たちのチームが彼らの処理プロセスを正確に把握し、正しくデータを収集する必要がありました。協業を進めるうちに、プロジェクトを進めるプロセスや手法が明確になり、その再現性を高めながら進めていきました。

Cullen氏:

日本に拠点を置かずに、日本でのビジネスに参画しようとすることは、間違いなく挑戦でした。SKYSCAPEには、様々な形でビジネスチャンスを得るためのサポートをしてもらっており、クライアントを開拓してくれたこともあります。私たちはデータ収集を、SKYSCAPEはデータ分析を必要としていることが多いので、お互いにメリットがあります。私たちはともにエンドツーエンドのサービスを提供し、互いの課題を克服することを目指しています。

ーースタートアップへのアドバイスはありますか?

Asa氏:

一番重要なのは忍耐力だと思います。スピード、柔軟性、革新的なアプローチなど、スタートアップ企業の強みの多くが、企業パートナーの弱点であることを理解しておくことも必要です。厳格な大手企業は、これらの点で苦労しています。一方で、多くのスタートアップの課題である資金、人材、経験の不足は、企業パートナーが補ってくれます。忍耐力を持ち、相手の課題や弱点を理解していれば、ステークホルダー全員にとってよりスムーズなプロジェクトの進行が可能になると考えています。

Cullen氏:

スタートアップにとってパートナーシップは非常に重要です。そのために、どのコミュニティにもネットワークがある状態を作る必要があります。大手企業に対しては、その企業が自分たちに必要なソリューションを既に認識していると思い込まないことが重要です。大手企業は、相手の話を聞いて理解しようとするだけで、必ずしも解決策を考えていないことが多いのです。コンセプトを示すよりも、複数の異なる種類のソリューションを提示し、それがなぜ彼らにとって有益かを説明するほうが効果的であると理解するには長い時間がかかりました。4、5カ月かけて議論していた内容を、数週間で進められたという経験も何度もあります。

ーー最後に、今後の事業展開とパートナーシップの展望について教えていただけますか?

Cullen氏:

私たちは、自然災害が農業に与える影響に焦点を当てたプロジェクトを始めています。また、Plug and Play Japanを通じて日本でのプロジェクトも検討しています。協業については、日本だけでなく国外でもSKYSCAPEとともに成長していくことを目指しており、オーストラリアのドローンサービスプロバイダーがスキルアップを必要とする場合には、ぜひSKYSCAPEに協力してもらいたいと考えています。

Asa氏:

私たちは今後採用にさらに注力していく予定です。また、Plug and Play Japanのプログラムで繋がった大手企業の中に、すでにPoCに着手していたり、協業の検討をしている企業があります。今後は、既に利用が進んでいる既存サービスの精度向上や業務の更なる効率化、またビジネスをさらに浸透させていくことを目指しています。

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