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日本のQコマース先駆者としての事業戦略 - OniGO株式会社

2022/11/15

新型コロナウイルス感染症の影響などによりEコマースの需要が高まる中、さらにユーザーへの時短ニーズに対応したQコマース(クイックコマース:注文から配達までのスピードの速さを特徴とした次世代のEコマース)が急速な成長を遂げています。このQコマースの分野で、日本における先駆者として市場を牽引しているのが、2021年6月創業のOniGO株式会社。スマホアプリから注文して最短10分で食料品や日用品を届ける宅配スーパー「OniGO」を展開しています。
Plug and Play Japanは、Eコマース市場規模の大きさやQコマースの急速な成長可能性、そしてOniGOが掲げる「人々の大切な時間を創り出す」というミッションに共感し、2022年4月に投資を決定しました。今回は、事業立ち上げの背景からビジネスの競合優位性、今後の事業戦略、Plug and Play Japanの出資を受けた理由などについて、OniGo株式会社 代表取締役CEO 梅下直也氏にお話を伺いました。


Writer: 関口 朗子

Akiko Sekiguchi


OniGO株式会社

https://onigo.co.jp/


プロフィール

代表取締役CEO:梅下 直也

連続起業家。三井住友銀行にてロシア事業を1兆円規模へ成長させるも、当時の米露関係に嫌気し退職。帰国後、複数起業し、中古車オンラインオークション事業を楽天へ売却。スタートアップ支援のCapital Driveを共同創業・黒字化させた上で、2021年、OniGOを共同創業。愛娘の育児に奮闘しつつ、起業家になるための英才教育を画策中。

Interviewer: Plug and Play Japan Head of Ventures, 馬 静前

大学卒業後、EYにて移転価格、海外進出実務及びM&Aに係るコンサルティング業務に従事。その後モルガン・スタンレーMUFG証券を経て、2019年にSBIインベストメントに入社し、フィンテック、AI、SaaS等の国内及び海外のベンチャー企業への投資業務に従事。リード投資家として複数の投資先の取締役を務めた。また、投資先に対するハンズオン支援を実施し、イグジットまで導く。なお、複数のCVCファンドの運用にも関与。2021年にPlug and Play Venturesに参画、Head of Venturesを務め、日本におけるベンチャー投資業務全般を統括する。

 

新しい購買体験をユーザーに提供できる、Eコマースの進化系ビジネス

——Qコマースというビジネスを日本に展開しようとしたきっかけを聞かせてください。

梅下氏:
金融業界時代は海外での経験が長く、帰国後の2015年からスタートアップを起業しました。直近では、中古車オンラインオークション事業のスタートアップを経営し、2019年に楽天に売却しています。こうした経歴の中で、海外のEコマース関連の起業家とネットワークを築いて情報交換を続けてきました。海外では2020年頃から急激にQコマースが伸びていましたが、日本は取り残されて空白地帯のようなマーケットになっていました。海外の起業家仲間から「なぜ日本だけそういう状況なのか」と聞かれるようになり、調べ始めたのが最初にQコマースに興味を持ったきっかけです。

調べていく中で感じたのは、新しい購買体験をユーザーに提供でき、Eコマースの進化系として可能性があるビジネスだということ。日本の市場環境やユーザーを理解しないとできないサービスであり、大企業では手をつけにくいビジネスモデルでもあると感じたので、ここなら自分の経験も活かせる領域ではないかと、事業の立ち上げを決めました。食料品は誰もが買うプロダクトなので、社会にも良い影響を与えられる事業になると思ったことも魅力を感じた理由の一つです。

——OniGOが先駆者としてスタートし、その後、他のスタートアップや海外プレーヤーも日本市場に参入してきています。同業他社と比べて、御社の優位性や特徴について教えてください。

梅下氏:
このビジネスのポイントは2つあると思っていて、1つはアイデアを実行へ移すエグゼキューションのスピード、もう1つは資金調達です。ある程度コストのかかるビジネスモデルなので、この2つをしっかりとできるチームでないと勝てないと思っています。「スピード」について深掘りすると、これも2つあり、1つは技術的な開発スピードです。自社で開発ができる、テクノロジーに強いチームを持つということがエグゼキューションする上でも重要になります。もう1つは事業開発の面で、要所を占める提携をしっかり進めることが事業スピードを上げることにつながると考えています。

海外企業との違いで言いますと、弊社の場合は日本の市場に向き合いながら、自社で全て開発していることが大きな差別化ポイントになります。海外マーケットと比較して、日本の最も大きな特徴はコンビニエンスストアが多いということです。だからこそ私たちは、スーパーでの買い物体験にこだわり、「忙しい中でも健康的な食事や自炊ができる」といった価値を提供し、従来のネットスーパーやコンビニといったサービスでは解決できていない問題にフォーカスして、徹底してサービスを磨き込んでいます。

このように日本でこのビジネスを成功させる上で必要な機能を、自分たちで考え、自分たちで開発し、丁寧に実現していく。それこそが日本のユーザーの求める購買体験を作っていくことにつながると考えています。もちろん「早く届ける」ということは機能性として非常に重要な差別化要因になっていますが、それだけでなく「このサービスいいね」とファンになってもらえるような購買体験を作ることが重要で、それは日本のチームだからこそできると思っています。

——配達員が自社の従業員であることがサービスの独自性の一つだと思いますが、その方針は今後も変わらないのでしょうか?

梅下氏:
そこが重要なポイントだと思っています。お客様の購買体験において最後のタッチポイントとなるのが、弊社で「ライダー」と呼んでいる配達員になります。ですから、そこの教育にはかなりの投資をし、教育システムも構築してきています。今後も大切にしていきたいと考えているポイントです。

唯一無二の競争優位性を持って、日本のQコマース市場を牽引していきたい

——日本のQコマース市場は海外に比べると遅れをとっていますが、そのポテンシャルの高さや、今後の日本のQコマース市場についてどうお考えですか?

梅下氏:
日本のQコマース市場はまだまだ黎明期で、やっと少しずつ浸透してきている状態だと思っています。例えば薬の配送にしても、ようやくオンライン診療やオンライン服薬指導が始まり、大きな規制緩和の流れが生まれつつあります。食料品配送も徐々に新しい生活様式として定着してきました。今後はさらに当たり前になることを日本のユーザーが求めていますし、社会として対応していく必要が出てくると思っています。そうした中で我々は先駆者として、自分たちが開発したシステムや配達のリソースを社会の必要なところにシェアしていくことも考えています。それが、社会に対してより良いインパクトを与えていくことにもつながりますし、もちろん我々の経営効率改善にもつながると考えています。

——市場が急成長する中で今後も多くの業者が参入し、最終的に数社が残るのではないかと予測されています。その中で御社が勝ち抜き、さらに市場をリードしていくために、どのような戦略で事業を展開していくのでしょうか?

梅下氏:
まず我々の提供するユーザー体験のUSP(Unique Selling Proposition)は、「スーパーでの買い物体験がアプリやWEBでできる」「宅配なのにスーパーの価格帯と変わらない」「最短10分で必要なものがすぐに届く」の3点になります。

さらに、サービスというものはただ便利なだけではだめで、気持ちのいい買い物体験を作ることが大切なので、そこを目指してシステムとオペレーションを同時に改善できることが我々としての一番の強みです。これがユーザーの継続性や購買頻度にもつながっていくと考えており、すでに我々のサービスの購買頻度は、他のネットスーパーよりも高いという結果が数字として見えてきています。

新たな価値を生み出すためのテストができる環境がすでにありますので、さまざまな価値を組み合わせることで、ユニットエコノミクスの観点でも他では実現できないことがうちでは実現できます。今後は唯一無二の競争優位性を磨きながら、さらなるスケールも可能になると考えています。

——最新情報も含めて、具体的なビジネスの現状を教えていただけますか。

梅下氏:
現在、13店舗のロケーションから、東京23区と都下の一部にサービスを提供しています。年内までに23区をカバーするという目標については、ほぼスケジュール通りに実現できていると思います。ユーザー数は全体で7万人を超えている状況で、東京の中で感度の高い人たちに使っていただけているという点でも、価値のあるプラットフォームの構築が順調に進んでいると言えるのではないでしょうか。

——東京以外のエリアも視野に入れているという話もありましたが、今後、地方都市に進出される場合は、進出先としてどの都市・地域をイメージされていますか?また、どういったスケジュールで進められる計画ですか?

梅下氏:
今の展開の延長線上として一都三県がありますので、まず神奈川、千葉、埼玉の人口集中地域で進めていくことを考えています。それ以外のエリアでは、関西の人口集中エリア、名古屋、福岡、仙台なども十分可能性のあるマーケットだと考えていますので、年明け以降に検討していく予定です。

食料品の場合はサプライチェーンの問題がありますので、小売店とのパートナーシップが重要だと考えています。我々が構築してきたシステムと、小売店の優れたサプライチェーンを掛け合わせることで、新たな購買体験を日本の主要都市に広げていくことも、年明け以降には徐々に可能になっていくと思います。

事業への深い理解と信頼関係をベースにした、Plug and Playとのパートナーシップ

——今回、Plug and Play Japanでは、御社と初回面談から一週間以内に投資の意思決定をしており、Plug and Playグローバルチームにとっても異例のスピードとなりました。OniGOの事業展開や将来性を鑑みてすぐに投資判断をしたわけですが、一方で御社がPlug and Play Japanからの出資を受けると決めた理由について聞かせていただいても宜しいですか?

梅下氏:
資金調達は我々にとって非常に重要なプロセスであり、戦略的な意味のあるものです。私の中では、お金だけ出してもらえればいいという考えはなく、投資家の方々との信頼関係が絶対的に必要だと考えています。やはり事業に対する深い理解を持っていただくことが重要で、そのベースがないと長いお付き合いをしていくのは双方にとって難しくなることを過去の経験から知っています。そうした経緯から、投資家の方々とのコミュニケーションを非常に大切にしています。

Plug and Playさんのことは以前から知っていて、スタートアップ支援などを丁寧にされているという印象はありましたが、正直に言うと投資に関してはそれほど積極的にされているとは思っていませんでした。しかし、キャピタリストとしての経験豊富な馬さんと初めてお会いした時にその印象が大きく変わりました。我々の事業の本質とポテンシャルを的確に捉え、事業ビジョンにも深く共感いただきました。また、その後のアクションも驚くべきスピードでしたので、これからパートナーとしてビジネスを共に成功させていきたいと感じられたことが、大きなポイントでした。

——弊社はいわゆる投資だけでなく、アクセラレータープログラムを運用しているからこそ、他の投資家では提供できない価値もありますので、さまざまな支援をしていけたらと思っています。今後のPlug and Playというプラットフォームの活用イメージを伺っても宜しいでしょうか?

梅下氏:
スタートアップに興味のある大手企業が御社のプラットフォームに参画されており、我々もアクセスできる可能性が持てるのが魅力的だと思っています。御社の各バーティカルでリレーションを作っていただき、介在いただくことでスムーズに話がしやすいというのは、我々単独では難しいと思いますので、ありがたいですね。

——今後、こんな企業と提携をしていきたい、こういった業界と関係性を築いていきたいといった考えがありましたら、ぜひ教えてください

梅下氏:
一つは食品に限らず小売業界で、デジタルでの買い物体験を提供したいという企業です。我々のサービスは「すぐに届ける」というところに独自性があり、カスタマーのエンゲージを高められるというポイントがありますので、ご興味のある企業と協働の可能性についてディスカッションしてみたいと思っています。

あとは特に食品メーカーでは、「ダイレクトに消費者と繋がりたい」「DtoCをやってみたい」と新規事業に取り組んでいるところが昨今増えていますので、提携の可能性があると考えています。また、新商品を開発したとき、本当に購入者のインサイトに刺さっているのか検証してみたいと言う企業も(協業の)可能性があります。従来のモニターにおけるパネラーとのコミュニケーションだけでは見えない部分もありますが、我々のプラットフォームでは、ユーザーの購買行動を通してインサイトを捉えることができます。そうしたデータを持っていることも我々の新たな価値であり、重要なインサイトを提供できる可能性を持っていると思いますので、興味のあるところとは積極的に協業のお話をしていきたいと思っています。

——最後に今後のビジョンをお聞かせください。

梅下氏:
今後も引き続き、ユーザー目線で新しい購買体験を作っていくことを目指して取り組んでいきます。我々は「日本版Qコマースの事業モデルを確立し広げる」をビジョンに掲げ、そこを信じてビジネスをやっています。現在、徐々に形ができつつあるところなので、今のビジネススキームを確立させて成長の歯車が回っていけば、このビジネスの成長のポテンシャルは今とは比べ物にならないくらいの規模になっていくと考えています。

日本の飲食・食料品市場が44兆円ある中で、Eコマースは4〜5兆円、Qコマースはまだまだですが、2兆円くらいのポテンシャルがあると考えています。我々が1兆円企業になれるポテンシャルを持つ領域でビジネスをしていると言う認識を持ち、そこでNo.1になることを本気で目指していきたいと思います。

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