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インタビュー | CEOサイード・アミディ

2020/07/14

Plug and Play Japanの設立3周年を記念し、Plug and Play CEOサイード・アミディと、 CEO & Managing Partner, Japanのヴィンセント・フィリップが対談を行いました。アメリカで2006年にPlug and Playを創業したきっかけ、そして日本での2017年のPlug and Play Japan立ち上げの背景について振り返りました。

(2020年7月14日公開、2024年7月18日内容一部修正)


Saeed Amidi サイード・アミディ

CEO, Plug and Play

2000年に西海岸のシード・アーリーステージ企業の投資機関であるAmidzadを共同設立。15年以上に渡り、PayPal、DropBoxなど2000社以上のテクノロジー企業へ投資を実施(うちユニコーン企業は31社(2023年6月現在))。2006年に世界の大企業とスタートアップを支援するイノベーションプラットフォームであるVC兼アクセラレーターのPlug and Playを設立。金融・保険、製造、小売、ヘルスケア、ホスピタリティなど、さまざまな業界の大手企業500社以上とともにアクセラレータープログラムを通したイノベーション支援をおこなっている。


Phillip Vincent ヴィンセント・フィリップ

Plug and Play Japan 代表取締役社長

2014年シリコンバレーのPlug and Play本社にジョインし、IoT部門とMobility部門のプログラムのディレクター、および日本企業のアカウントマネージャーを兼務。2017年にPlug and Play Japanを立ち上げる。現在はPlug and Play JapanのManaging Partner, APAC | Japan, CEOを務める。


Plug and Playのはじまり

Phillip:

7月でPlug and Play Japanは3周年を迎えます。この3年間本当に色々なことがありましたが、Plug and Play Japanの話をする前に、Plug and Playがどのように発展してきたかを聞きたいです。私が6年前にPlug and Playに入社する前から、すでにシンガポールではSingapore Press Holdingsと、ドイツではAxel Springerと連携して海外拠点を広げていましたよね。海外展開について、どう考えていますか?そして当初どんなことを期待していたのでしょうか。

Saeed:

Plug and Playを始めたのは2006年1月、カリフォルニアのサニーベールです。当初は不動産ビジネスに近いものでした。オフィスを契約して入居する前から、半年かけてたくさんのスタートアップを面接していたのです。

「スタートアップが集まるこういう場所をつくるんですが、参加しませんか?」と誘っていたのですが、最初は楽ではありませんでしたね。一番最初のテナントであるCanestaが入居してくれるまで、4回も訪問して説得しました。また、当初はハードウェア、特に半導体界隈に注目していたんです。CadenceやSynopsisといった企業と交渉していました。「半導体業界に参入したかったら、Plug and Playに来れば必要なツールや実験器具は揃っていますよ」と言いたかったんです。現在のAppleやHPのような感じで、当時は電子機器や半導体がテクノロジー業界の中心でした。そのあとはソフトウェアビジネスやインターネットビジネスに移って行きましたが。今私たちが使っているモバイルアプリや、GoogleやFacebookのような企業なんて、15年前は誰も想像していませんでしたね。

(カリフォルニア州パロアルトに所在するPlug and Playの前身となったテナントビル:通称”ラッキー・ビルディング”)

インターネットやスマートフォンが普及する前、ソフトウェアビジネスはMicrosoftやIBMをはじめとした企業が市場を支配していました。しかしPlug and Playがサニーベールにオープンすると、私たちはソフトウェア開発企業やB2Cビジネスのハブとなっていったのです。不動産事業は2年ほどで安定してきて、キャッシュフローも増えてきました。そこでコーポレートメンバーシップに基づいたビジネスを考え始めたのです。銀行、法律事務所など8-10社ほどのスポンサーを集めて、スタートアップがビジネスをしやすい仕組み作りをはじめました。毎週火曜日か水曜日に法律事務所や経理事務所にオフィスに来てもらって、そこでサインすればすぐに会社を登記できてサービスを受けられるようにしたのです。

するとそこで、VolkswagenとCitibankから「スタートアップに会いたい」と相談され、アイデアがひらめきました。彼らのために小さなビジネスコンテストを開きました。それがコーポレートイノベーションに携わるようになったきっかけです。そしてそこから日本企業とのつながりも生まれました。製造業の企業が最初のパートナーでした。

(サニーベールのPlug and Play Tech Center)

Phillip:

初期は電子機器や半導体の企業も参加していたそうですね。私が入社した時は、バーティカル(業界テーマ)別のアクセラレータープログラムを始めたばかりの頃でした。Brand & Retailプログラムが立ち上がったばかりで、IoTプログラムの立ち上げを検討している時期でしたね。

Saeed:

プログラムの形を少しずつ整え始めて、大学のセメスターのような仕組みを作ろうとしていたところでした。始まりと終わりの期間を定め、EXPOは卒業前の最終試験のような感じで、その間に様々なプログラムを行うという形です。日本の人たち、あるいは日本企業の良い点は、彼らが長期的視点で物事を考えるところです。「自分たちのR&Dプロジェクトを補完するものかどうか?」という点でスタートアップの技術を見ていますよね。

面白い話があります。Plug and Playに入居して1年半くらいのとある日本企業から「上司がシリコンバレーに来るので、ミーティングに参加してもらえませんか?」と頼まれたことがありました。1年の成果を発表するときに、どんなメンバーが同席しているかが重要であるという、人間関係の構築が複雑な日本文化を学ぶ、非常に興味深い機会でした。

日本については、Phillipから最初に「日本に拠点を作ったらどうでしょうか?」と言われて「いいアイデアだ、向こう半年でやってみよう」と言いました。Phillipが一度先に視察に行って、2回目は私も一緒に日本に行きましたね。

(2017年MUFGとの面談後の様子)

Phillip:

その時のミーティングは今でもよく覚えています。日本拠点立ち上げは、MUFGなくして語ることができません。「日本法人を立ち上げるなら、喜んで最初のパートナーになる」と言ってくれたのです。

当初は共同でジョイントアクセラレータープログラムをやる構想も出ていましたが、Plug and Play Japanではシリコンバレーでやっているようなコンソーシアムモデルでやろうということになったんです。日本にとっては、シリコンバレーで多くの日本企業がパートナーに入っていたので、良いアイデアでした。最初はIoTとMobilityプログラムを考えていましたね。

Saeed:

シリコンバレーのIoTとMobilityのパートナーのうち、50%くらいは日本企業でしたから。

Phillip:

そうでしたね。ただ個人的には、シリコンバレーに残るか、日本で新拠点を立ち上げるか、正直に言ってとても悩みました。でも外に出て新しいことを始めるというのは、面白い挑戦だと感じたんです。

世界を相手にビジネスをするビジョン

Saeed:

最初の質問に戻りましょうか。20歳頃に初めて自分のビジネスを始めた時、地理的な壁はほとんど気にしませんでした。人生で最初の顧客はサウジアラビアだったんです。ちょっと常識外れですよね。なぜ自分の住む場所の近くにいる顧客を狙わないのか? でも私にとっては、違う国も違う文化も、障壁にはならなかったんです。

ミネラルウォーターのビジネスを始めた時、世界地図を広げて「顧客を50社欲しい」と考えました。フランス、イタリア、それ以外の地域など見ていたのですが、それらの国々が実際どれくらい離れているかちゃんと測らなかったんですよね(笑)。

その当時の顧客の中にとある日本の飲料メーカーがいました。彼らは新しいパッケージに特化して、サプライテクノロジーと設備のあるプラントを世界中にたくさん作っていきました。そこから徐々に、一緒にジョイントベンチャーをやろうとなっていったんです。10%の出資から初めて後半は50%までになりましたが、世界の飲料メーカーと競合してきました。その経験がPlug and Playの海外展開に生きていると思います。

Phillip:

他の多くの海外展開の経験があったから、Plug and Playでも国境を超えたビジネス拡大に抵抗はなかった。いろいろな地域にあるたくさんの会社と、様々なストラテジーを異なるタイミングで、それぞれ違ったやり方で試してきたということですね。なのでグローバル化に対しても、どういった形のエンゲージメントやストラテジー、プロセスなどが機能するかがわかっていたということでしょうか。

Saeed:

日本での成功の例として言えるのが、拠点を開設する前からMUFGのような主要なプレイヤーがいたということですね。MUFGのブランドとコミットメントのおかげだと思います。国内最大の銀行が自らのクライアントに紹介してくれたことで、信用を得られました。

Phillip:

最初のミーティングで、Plug and Playと日本でやりたいこと、日本のスタートアップ・エコシステムを支援するために私たちにしてもらいたいこと、そしてPlug and Play Japanのプラットフォームにどんなパートナーに入ってもらいたいかを話してもらいました。イノベーションやスタートアップ、グローバライゼーションを通じて日本経済を活性化するのが目的だったんです。つまり、Plug and Playのビジョンと同じように、自分たちだけではできないこと、日本に新しい変化の大きな波を起こすということを、Plug and Playのプラットフォームを使ってやろうと思ってもらえた。最初に日本で拠点をオープンするにあたって、プログラム開始前に10社ものファウンディングパートナーに参画いただけたのは、本当にありがたかったです。

(Plug and Play Japanローンチイベントの様子)

意識を、文化を変革する

Saeed:

過去を振り返ったので、未来についても話しましょう。具体的には、スタートアップや新しい会社を作る文化についてですね。日本はまだ保守的で慎重すぎると思います。ですから私たちは、様々な組織・人々と一緒に文化の変化を強く推進する必要があると思っています。

ベルリン、パリ、ミュンヘン、ミラノ、またはバルセロナを見ていて思いますが、特にバルセロナやパリには勢いとエネルギーのあるスタートアップや起業家がたくさんいます。繰り返しになりますが、Plug and Play Japanの課題として、日本人がよりリスクを取り、より挑戦できるようにするために、意識を変えていかなくてはなりません。

Phillip:

確かに重要なポイントですね。自分たちが今なぜこれをやっているかという理由のひとつでもあります。

イノベーションを実現するためには、単に大手企業にスタートアップを紹介するだけではなくて、そのステップに進む前の段階から、他社とパートナーシップを結び、イノベーションを受け入れ、スタートアップを受け入れる準備ができるようにすることが必要です。ただそれには、多くの点で考え方と文化の変化が伴います。

さっきも出たように、日本は海外と比較してまだ保守的ですからね。日本には起業家はまだ多くなく、起業家教育も始まったばかりです。日本がグローバルイノベーションハブになるためには、まだ多くのハードルがあります。他にも、保守的でリスクを嫌うこと、失敗を恐れること、言葉の壁、などいくつも課題があります。シリコンバレーでもそれらを感じる瞬間はありましたが、こういったところを自分たちで変えていきたいと思っています。

Saeed:

Nokiaは知っていますよね。実はNokiaは紙・パルプ事業に属していた家業の一部でした。事業を3つか4つやっていたのです。彼らは事業をスリム化し、主要な産業機械部門に集中したいと考えていました。その調査を行ったMBAホルダーたちは、携帯電話部門以外を排除するべきだと述べました。それが業界の未来だからと。それ以降の20年間、Nokiaはすばらしい業績を上げました。ヘルシンキのオフィスを訪問したときに、オレンジと赤のスマートフォンを見せてもらったのを覚えています。その時私に「スマートフォンは市場のわずか20%にすぎない。だから私たちは、50%になったときにこの事業に集中する」と言っていました。そして……完全に船に乗り遅れてしまった。

なのでこの話で得られる教訓は、素晴らしいビジネスや企業であっても、変化によりすばやく対応する必要性をきちんと伝えていくことだと思います。年間3〜4つは新しいビジネスモデルを試すべきです。おそらく10個くらいは失敗するでしょう。しかし1つでも成功すれば、5年後には彼らの主要事業になる可能性があります。

Phillip:

そういう教訓を、日本の企業パートナーやもっと多くの人に伝えていくことが、難しいけれどもとても大事な挑戦ですね。

Saeed:

私は世界中で様々な国の経営者たちと協力してきました。人の生活には、「個人」と「家庭」そして「仕事」という側面があると思います。その中でも日本人は仕事が重要であり、「最善を尽くさなければならない」「一生懸命働かなければならない」という意識があるように思います。倫理的にもそれがとても重要なんですね。

日本へ旅行して本当に良かったです。日本から戻ってきた友人たちから聞いても、みな日本の仕事文化とハードワークに大きな敬意を払います。ただもう少しスピードを出すために、塩とコショウをちょっと加える必要があるだけだと思います。

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