起業家の成功とは?米ユニコーンStripeとEDGE of INNOVATIONに聞く
2023/10/24
日本のスタートアップエコシステムに欠けているものは何なのか。ユニコーン企業Stripe、スタートアップ支援組織EDGEof INNOVATIONとPlug and Play Japanのパネルディスカッション後半では、日本からグローバル市場へ挑戦する起業家を育てるために必要な要素について意見を交わしました。
(*本記事は、2023年9月に行われた「Japan Summit – Summer/Fall 2023」におけるパネルディスカッション『グローバルとローカルの観点で考える、これからのスタートアップエコシステム』の内容に基づいて構成・編集しました。前編「StripeとEDGEof INNOVATIONに聞く、スタートアップにとっての日本市場」はこちら)
Writer: Haruhito Suzuki Marketing & Communications Intern
[Panelist]
ダニエル ヘフェルナン Daniel Heffernan
ストライプジャパン株式会社 代表取締役
Stripeの日本におけるプロダクト・開発分野を担う。2014年にStripe日本法人を創設。以来、日本向け製品の開発や組織の拡大に尽力し、日本市場向けのプロダクト戦略を統括。Stripe参画以前は、クックパッドでエンジニアとして従事。東京大学にて情報理工学修士号を取得。 Stripe:https://stripe.com/jp
小田嶋 アレックス Alex Odajima
合同会社エッジオブ・イノベーション CEO
ビジネスインキュベーションのスペシャリストとして、数多くのスタートアップ立ち上げや企業の新規事業開発に携わる。2018年に設立したEDGEofでは、2年間で世界50ヶ国以上から1万5千人を超える来場者を迎え、数多くのイノベーティブなプロジェクトを展開。各国大使館やスタートアップ支援機関と連携したイノベーション関連施策に関わり、多くのスタートアップ育成プログラムにメンターとして携わる。J-Startup推薦委員、German Entrepreneurship 日本代表、Endeavor Japan オペレーション・マネージャー。 EDGEof INNOVATION: https://www.linkedin.com/in/taisuke-alex-odajima/
ヴィンセント・フィリップ Phillip Vincent
Plug and Play Japan株式会社 代表取締役社長
2014年シリコンバレーのPlug and Play本社にジョインし、IoT部門とMobility部門のプログラムのディレクター、および日本企業のアカウントマネージャーを兼務。2017年にPlug and Play Japanを立ち上げる。現在はPlug and Play JapanのCEO & Managing Partnerを務める。
成功の定義を変える
Philip:
スタートアップエコシステム作りに日々関わっているアレックスさんから見て、日本からグローバルな起業家を輩出するために必要なアクションは何だと思いますか?
Alex:
「成功」の定義を変えることです。決して非難するわけではないですが、テレビに出ている日本の起業家の方々は一般的な日本人から見たら充分成功者です。でも海外で彼らを知っている人はほとんどいません。100億円程度のバリュエーションで上場してエンジェル投資家になったような起業家が成功者のモデルとして扱われているのは、経済合理性でいうと間違ってはいないですが、それを「成功」の共通認識としている限り、日本の中だけで小さく再生産を続ければいいというマインドセットになってしまう。本当の意味でのグローバル化は厳しいと思います。
エストニアやマレーシアでは世界的にも名の知れたユニコーンが誕生しています。それらの国では自国マーケットの規模が成長には全く足りないため、国外に行くことを最初から意識する起業家が多いですし、グローバル市場で活躍している起業家を成功者のイメージとしています。日本においてグローバルな成功者を育てるのならば、ロールモデルも世界を前提として勝負している人にして、人々に「自分もあれをやりたい」という夢を与えていくことが必要だと思います。
経験に基づく”How to”の継承
Alex:
また成功の定義だけではなく、実際にスタートアップの行動も変わらなければいけません。人が行動を変えるために重要なのは二つのファクターです。一つはインスピレーションです。「そういうことができるんだ!」というインスピレーションを与え、発想を変えることが第一の重点です。次に、インスピレーションに対してリアリティを持たせることです。「イーロン・マスクすごい!でも自分とは違う世界の話だな」というマインドセットになると、最初の一歩を踏み出せなくなってしまいます。
現在の日本は、”How to”の順番を逆にやっている形になっています。どうやったらユニコーンが生まれるかを教えるスクールがあったりしますが、まずは起業家にインスピレーションを与え「やりたい」と思わせることが先に来るべきですし、経験に基づいていない”How to”は役に立ちません。
ユニコーンを作ったことがない人が「これをやりなさい」と言っても「なんでそんなことを言えるんだ」と疑問を抱きますよね。サッカーを一度もやったことがない人が監督しているチームは多分勝てないです。僕もユニコーンになったことがないので、どうやればユニコーンになれるか僕自身はわかりません。だからこそ、ユニコーンの経営者を招き「どのようなことをやったんですか」と聞いて、本当の成功者の経験から新たな視点の提供と深掘りを手伝うことは、自分ができることだと思います。日本が今やらなければならないのは、リアリティを持った”How to”をきちんと作っていくことだと思います。
Philip:
長く日本にいるダニエルから見て、日本の起業家が今後グローバル展開を目指すうえでどこを重視し、どこに注意すべきでしょうか?
Daniel:
インスピレーションをどこから得るかに注目すべきでしょう。グローバルマインドを得るには全世界から情報を集めて、自分で考えるのが重要です。日本語で発信されている情報しか触れていない人との差は大きいですね。また、モチベーションを持って「海外に行ってやってみよう」という人と、「よくわからないから怖い」という人にも差があると思います。なので、グローバルマインドを培うには色々な国の人と話をしてみたり、「海外ではどういうことが起きているのか」と考える姿勢を持つことが、まずは大事だと思います。世界を舞台として何をするか考えることですね。
アメリカのシリコンバレーでは世界屈指のスタートアップエコシステムが形成されています。しかし、シリコンバレーも20年で一気に成長したわけではなく、HPの前の時代から、何世代にも渡って形成されているものです。なので長期的なビジョンを持って次の世代にサクセスを繋いでいき、徐々に壮大なエコシステムを形成していくことが、多くのユニコーンの誕生に繋がる道筋だと思います。
正しい失敗を許容する
Philip:
スタートアップエコシステムには多種多様なプレイヤーがおり、様々な要素が揃わない限りグローバル化は目指せないと思います。投資家、政府、大手企業を含めたプレーヤーは今後どのような動きをしなければいけないでしょうか?
Alex:
全プレーヤーに共通してやらなければならないことは、「正しい失敗」を許容することです。わかりきったことをやったり、不勉強によって失敗したりは𠮟責されてしかるべきですが、やってみなければ分からないこともたくさんあります。成功の99%は、やってみて初めて成功したことだと思うんですよね。ただ日本では、どうしても失敗したら周りから非難されるというイメージがあります。誰でも失敗は怖いですが、特に社長の一歩手前まで昇進している人たちが、リスクを取ることを最もためらうように思います。ただ、やはり正しい失敗は許してあげようという仕組みを大手企業を筆頭に醸成していくべきだと思います。行政の中でも、スタートアップでも「正しい失敗ならやってみよう」という機運を作っていくべきですね。
Philip:
大手企業においても会社全体でイノベーションを促す文化を根付かせていかなければなりませんし、その文化をさまざまなプレーヤーとともに共有することが大事ではないでしょうか。最後に、今日ここにいる人達に対して、一人一人ができることは何なのかメッセージをいただきたいです。
Daniel:
自分ももちろんのこと、周りのメンバーに対しても「いかにグローバルマインドを持てるか」を意識していくことが重要かと思います。また初期段階において大きな投資をする必要はなく、スモールスタートをして色々と試し、うまくいくところを見つけて、そこを段々と大きくしていくという、オペレーションループを自分なりに捉えて実施していくことが重要だと思います。
Alex:
大手企業の方々は、グローバルマインドを持っている若手がいたら信じてあげてください。これまでグローバルマインドに触れたことがない人にとって、そういう若手が言っていることは理解できない場合もあると思いますが、まずは小さな権限で良いので与えてチャレンジさせることがポイントになります。やらせてみて後でわかることもあるので、意思決定を挟まず若手の社員がトライアルできる環境を用意してあげてほしいです。社内にその機会がないのであれば、海外のスタートアップや、Plug and Playのようにグローバルに繋いでくれるプレーヤーを活用して、まず若手のパッションを試してみることにチャレンジしていけば確実に変わると思います。