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世界初の定常核融合炉の商用化を目指す - Helical Fusion株式会社

2023/01/10

ヘリカル方式による核融合炉の実現をフルスタックで目指す世界で唯一の会社であるHelical  Fusion。Plug and Play Japanは「人類は核融合で進化する」という同社のビジョンに共感し、本年5月に出資をいたしました。

エネルギー問題の解決へ向けDeepTechスタートアップとして起業した共同創業者の田口氏に、事業立ち上げの背景、Plug and Play Japanの出資を受けた理由、核融合発電のアドバンテージなどについて伺いました。


Writer: Plug and Play Communications Associate 阿部 翠 / Midori Abe


Helical Fusion株式会社

https://www.helicalfusion.com/


プロフィール

Helical Fusion Co., Ltd. 共同創業者 田口 昂哉 / Takaya Taguchi

みずほ銀行、国際協力銀行(JBIC)、PwCアドバイザリー(M&A)、第一生命、スタートアップCOOなどを経て株式会社Helical Fusionを共同創業。​京都大学大学院文学研究科(倫理学)修了、​京都大学修士(文学)。

Interviewer: Plug and Play Senior Ventures Associate 大岩 晴矩 / Harunori Oiwa

大阪大学大学院にて薬学、University of WashingtonにてGlobal Businessを専攻。医薬品開発、シリコンバレーのコンサルティング会社、バイオ系スタートアップを経てPlug and Playに参画。Health, DeepTech領域への投資を担当。

世界ではじめての商用核融合炉の開発に向けて

ーーまずは基本的な部分からお伺いしたいと思います。起業の経緯を教えてください。

田口氏:

2〜3年ほど前に、核融合の研究者達が起業を計画していた中、ビジネスサイドの人間が組織におらず事業が推進できていないと共通の知り合いを通じて知り、私がお手伝いさせていただいたのがきっかけです。

勉強していくうちに核融合という分野の面白さに気づき、また人類・地球の未来を考えた場合に取り組まなければならない技術だと思い、深くコミットしたいと思いました。光栄なことに研究者達も私と働くことを望んでくれたので、去年の5月頃にHelical Fusionの共同創業を決意し、10月に会社を設立しました。

ーー事業内容の概要をお聞かせください。

田口氏:

当社の最優先事業は、商用の核融合炉(フュージョンリアクター)を世界で初めて実現することです。これは、歴史上これまで誰も実現できていないことです。それを目指すうえで、現時点での事業は2つあり、1つ目は商用核融合炉の設計の提供、2つ目はコア技術の開発です。核融合炉全体の設計ができる研究者は世界でもごくわずかですが、弊社の創業メンバーである研究者は全員がこの炉設計ができる者たちです。その次にはコアとなる技術を開発しなければいけません。コア技術がある程度完成したあとに、この技術を必要とする個別のプレイヤーにも技術提供をしていきたいと考えています。

ーー技術についてもう少し詳しくお聞きします。核融合には「トカマク型」「レーザー型」「ヘリカル型」などの方式がありますが、御社の社名にもなっている「ヘリカル型」の特徴は何でしょうか?

田口氏:

最大の特徴は長時間連続での稼働ができることです。他の方式であっても核融合を瞬間的に起こせる可能性はあります。しかし、これまでの数々の実験の結果を見ても、現状で発電炉として半年から1年に渡って長期間稼働できる可能性があるのは「ヘリカル型」のみ考えています。従って、核融合技術を発電インフラとして使うには「ヘリカル型」が最も適していると考え採用しています。

ーープラズマ、超電導マグネット、ブランケット、ダイバーターなど、御社のコアとなる技術について教えてください。

核融合炉内部(画像元:https://www.iter.org/

田口氏:

核融合炉の実現には4つの主要技術が必要であると言われています。

まず、プラズマ(超高温状態になった水素ガス)の生成・制御に関してですが、弊社は核融合科学研究所で20年以上かけて培ったプラズマ関係の技術をスピンオフしたものを知見として持ち、プラズマ生成・制御方法に関してノウハウを持っているのが強みです。

ブランケットは核融合反応が起きる際に飛び出す中性子を受け止め熱に変えるための技術です。通常は金属の固体(粒状のリチウムなど)を使うケースが多いのですが、今の技術ですと効率が悪かったり、メンテナンスにも課題があったりします。弊社ではこれらの課題を解決するため液体を使ったブランケットの開発を目指しています。

超伝導マグネットは電磁石であり、水素のプラズマを閉じ込めておくための強力な磁場を作り出す装置です。このような強力な磁場を発生させるためには、超伝導技術を使います。普通の銅線などでコイルを作ると、電気抵抗によりあまり大きな電流が流せないため、電気抵抗がゼロの状態を作り大きな電流を流すことのできる超伝導技術が必須です。

世界で主に使われるのは、-269度の低温超伝導という技術ですが、商用化するには課題があります。電流は流しやすいものの大型になってしまいコストがかかったり、ブランケットを仕込むスペースがなくなってしまったりします。

弊社はそこで、高温超伝導という新しい技術を使いコイルを完成させようとしています。高温といっても-250度程度ですが、液体ヘリウムではなく液体水素やガス状のヘリウムで冷やすことができ、小型化も可能です。高温超伝導マグネットをいかに早く開発できるが核融合技術の実現には重要ですが、弊社ではこの分野の専門家を抱えており、鋭意開発を進めています。

最後にダイバータです。核融合炉の中では1億度以上のプラズマを真空空間に浮かせていますが、特定の場所にプラズマが集中的に当たってしまった場合、その部分が熱で溶けてしまいます。従って、特殊な材料で耐熱性の高いものをダイバータとして置いておく必要があります。

液体ブランケットが開発できればダイバータの機能も兼ねることができる可能性があるので、当面は高温超伝導マグネットと液体ブランケットの開発に注力する予定です。

「安全かつ環境負荷の少ないエネルギー」としての核融合発電

ーー核融合の最大の特徴は、安全性と環境への負担の少なさと伺いましたが、その点について詳しく教えていただけますか。

田口氏:

核融合には、原子力発電所におけるいわゆる「核分裂」とは正反対な特徴が、大きく2つあります。

1つ目は「暴走しない」ことです。核分裂の場合、元となる物質であるウランを水につけるだけで勝手に核分裂し別の原子に変わります。この際に出る熱を利用し、発電を行うのが原子力発電です。しかし、放っておくと勝手に分裂していく物質なので、制御棒などを利用して分裂をコントロールしなければなりません。仮に制御棒が壊れたり、ウランを漬けている水が温まったりなどの事案が発生すると、勝手に連鎖分裂反応が起き臨界事故が起きることもあります。

他方、核融合は暴走しません。核融合は無理やり原子核を合体させる反応であり、反応させるのがとても難しいためです。プラズマを加熱して1億度という高温にし、かつそれを高密度に保っておかないと融合反応は起こらず、こちらから何もしない場合すぐに反応は消えてしまいます。従って連続運転が難しいのです。放っておいて勝手に核融合が起こることはないので安全です。

2つ目は、反応後の廃棄物の違いです。核融合で出される放射性廃棄物は、核分裂のものとは全く異なります。核分裂に使用されるウランは使用された後、何万年と放射能を出し続けますが、その保管に関する解決方法は見つかっておらず、地中の何百メートルに埋めて見ないようにするしかないというのが現状です。

他方、核融合において排出される放射性廃棄物は、何を素材として使うかによりますが、数十年〜百年程度経過すれば放射性物質は出なくなり、安全にリサイクルや廃棄ができるようになります。社会実装するにあたっても自分たちで責任を持つことができ、次の時代に負担を残すことなく処理が終わります。

ーー国内外の規制面の動向についてはどう思いますか?

田口氏:

海外も含めてまだ具体的な規制は出来上がっていませんが、イギリスなどいくつかの国では比較的規制の準備が進んでいるようです。世界最大の実験炉であるITER*1という国際協調プロジェクトがフランスで行われていますが、フランスに核融合規制があるわけではありません。また、技術開発とそれに対する民間投資はグローバルレベルでは相当進んでいるものの、また実用化には至っていないため規制の準備はあまり進んでいません。核融合技術自体の実用化が見えてくれば、規制の整備を一気に進むのではないかと思います。

*1 平和目的のための核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証する為、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクト。2025年の運転開始を目指し、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7つの国と地域により進められる。

ITER全体図 (画像元:https://www.iter.org/

グローバルレベルの技術開発と資金調達を目指す

ーー田口さんはITERやニューヨークにおける核融合に関するカンファレンスに参加されたと思うのですが、そこでのご感想を聞かせてください。

田口氏:

9月にITERを訪問しました。敷地、建屋、装置全てが大きく、その物量や金属で巨大なコイルを作り組み立てているのを目の当たりにし、感動・尊敬の念を抱かざるを得ませんでした。ITERはトカマク型でありヘリカル型ではないので連続運転は難しいと思いますが、ぜひ成功してほしいと思いました。

10月にはニューヨークでの核融合に関するグローバルカンファレンスに参加しました。世界の名だたる核融合スタートアップや投資家など40名ほどが参加していました。クローズドな業界であることを感じたとともに、そうしたサークルに参加でき始めたことに手ごたえを感じました。日本と大きく異なる点として、アメリカでは核融合開発にリスクマネーが何千億円も投資されるのが当たり前となっており、いかに次のステージに繋げるかという議論がすでに始まっているので羨ましくも心強く感じました。

ーー今後、海外の核融合トップスタートアップとの協業はお考えですか?

田口氏:

協業の可能性は十分あると考えています。核融合スタートアップ各社のCEOとは、ニューヨークのカンファレンスにおいて特定の分野での協業の可能性についてディスカッションしました。

資金の面で世界トップレベルと言われるスタートアップと比べても、Helical Fusionの核融合の技術力には自信がありますし、安全な長期運転に関する技術力はむしろ弊社の方が高いと思っています。

ーー新規コンタクトを希望する業界や協業形態はありますか?

田口氏:

大きな資金規模のある方からの出資を期待しています。海外だと核融合スタートアップに5,000億円程度の資金が集まっていますが、日本では数十億円程度の資金が集まっているのみであり、海外と比較し資金規模が2桁異なるのは残念です。核融合及びHelical Fusionの技術に期待してくださる方で、大規模な資金を投下できる方との出会いを希望しています。

また技術協力も期待していますが、資本は伴わなくても構いません。

最後に、リスクリターンへの考え方が合う方が望ましいです。核融合が実現できるかはまだ不確実なので、堅いビジネスを期待される方や開発の確実性・迅速性を期待する方だとご一緒するのが難しいと思います。社会的インパクトに期待し、長期でかつ不確実性があっても資金を投下して一緒にリスクテイクをして下さるパートナーをお待ちしています。

事業・技術協力に関しては、日本企業の皆様に大きく期待しています。Helical Fusionの礎である岐阜の大型ヘリカル装置という核融合の実験装置は、日本の企業が作って下さいました。とても精度が高い上、納期が守られて建設されたのは世界の核融合実験装置の中でもこの装置だけと言われています。制度及び製造のスピードはヘリカル型という製造が難しいタイプにおいてはとても重要です。今後も、素材開発・装置製造を含め、日本の事業会社様に大きく期待しています。

ーー今年の春、Plug and Playから御社に出資させていただきましたが、当社からの出資を受けた理由をお聞かせください。

田口氏:

大きく3つあります。1つ目は、早くからHelical Fusionに注目いただいたことが純粋に嬉しかったためです。Plug and Playには核融合への理解があることがわかりましたし、起業してすぐに大岩さんから資金調達のお話をいただけたことにとても感謝しています。

2つ目は、Plug and Playからの出資がファンドではなく自己資本出資であったことです。エンジェルラウンドではここを重視していました。開発までに時間がかかる可能性がありますので、エグジット期限がある場合は厳しいと感じていました。もちろん可能な限り早期に事業を成功させるように努力はしますが、形式的な期限がないところがありがたいと感じました。

3つ目は、Helical Fusionは海外進出する予定でしたので、シリコンバレーに本社のあるPlug and Playが持っている海外でのノウハウやコネクションに期待し、出資いただくに至りました。

エネルギーに困らない世界を作り、世界平和へ貢献

ーー核融合でどのように世界を変えたいか今後のビジョンを教えてください。

田口氏:

人類を核融合で進化させることです。核融合は脱炭素やエネルギー自給、宇宙技術などさまざまな分野との親和性が強い技術です。また核融合技術の実現によりエネルギーの奪い合いがなくなれば、世界平和にも貢献できると真剣に信じていますので、人類がエネルギーに困らない世界を作っていきたいです。核融合は、人類が次の段階に進めるような影響を生み出すことができると考えています。

ーー米国に拠点を設立されましたが、海外における目標はどういったものでしょうか。

田口氏:

案件の性質は問いませんが、核融合業界でヘリカル型が技術的スタンダードとなるような状況を作るため、大きな影響力のある活動をしたいと考えています。

例えば、政府系の案件の受注、及び超富裕層から資金提供を受け、技術開発を一気に進めたいと考えています。また米国のみならず日本においてもヘリカル型のプレゼンスを高めたいです。

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