テクノロジーの力による「オルタナティブ投資の民主化」で日本の投資水準を世界レベルに - LUCAジャパン
2023/01/16
投資の世界では公開株式や債権は伝統的資産と呼ばれており、それらに当てはまらない資産を対象とした投資は「オルタナティブ投資(代替投資)」と呼ばれています。オルタナティブ投資にはさまざまな商品があるため金融リテラシー格差が大きく、これまでは一部の投資家にしか扱うことが難しい分野でした。
「オルタナティブ投資をもっと身近に、効率的に」というコンセプトで、複雑な投資プロセスをワンストップで完結するデジタルプラットフォームを提供するのがLUCAジャパンです。日本の投資環境をより開かれたものへ変革を目指す同社のミッション、ビジョンについて共同創業者・CEO シデナム慶子氏に話を伺いました
Writer: 田中嘉人
Yoshito Tanaka
プロフィール
Interviewee: シデナム慶子氏
LUCAジャパン共同創業者・CEO2003年よりヘッジファンド投資に従事、その後2007年より米系運用会社日本拠点にてプライベートエクイティ、不動産、インフラ、プライベートクレジットなどのオルタナティブ投資ファンドの戦略説明、資金調達、機関投資家リレーションシップを統括。JPモルガン・アセットマネジメントでのオルタナティブ投資戦略室長を務めた後、ブラックストーン・グループにおけるマネージングディレクターを経て、2021年LUCAの創業メンバーに参画。米ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士。
Interviewer: 馬 静前(Jingqian Ma)
Plug and Play Japan Head of Ventures大学卒業後、EYにて移転価格、海外進出実務及びM&Aに係るコンサルティング業務に従事。その後モルガン・スタンレーMUFG証券を経て、2019年にSBIインベストメントに入社し、フィンテック、AI、SaaS等の国内及び海外のベンチャー企業への投資業務に従事。リード投資家として複数の投資先の取締役を務めた。また、投資先に対するハンズオン支援を実施し、イグジットまで導く。なお、複数のCVCファンドの運用にも関与。2021年にPlug and Play Venturesに参画、Head of Venturesを務め、日本におけるベンチャー投資業務全般を統括する。
「オルタナティブ投資」をより多くの投資家へ届けたい
−−まず、LUCAジャパンの事業内容について教えてください。
LUCAジャパンは「日本の投資水準を世界レベルにしよう」ということを掲げており、「オルタナティブ投資」と呼ばれるアセットクラスを通じて、それを実現したいと思っております。
「オルタナティブ投資」とは、伝統的な投資対象である上場株式や債券とは異なる運用対象への投資のことを指します。例としては、プライベート投資と呼ばれる、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル、ヘッジファンド、商品ファンド、不動産など企業の資となるものを提供する手段です。これらは一般的に上場株式や債券と相関しないとされており、ポートフォリオにオルタナティブ投資を組み込むことで、リスク分散の効果が期待されています。
これまでオルタナティブ投資は、機関投資家など限られた投資家にしかアクセスできませんでした。今後はより幅広い投資家に提供していくことが私たちの目標です。
特に地方銀行や信用金庫のような中小の金融機関や財団などは、課題は感じているものの打開策を見つけられていないケースも多いと考えています。オルタナティブ投資は情報格差が大きいのですが、テクノロジーによって情報に透明性を持たせられるので、情報へのアクセスを増やすことをご提案していきたいですね
−−確かに運用に関しては知見やノウハウがない場合もありますからね。特にオルタナティブ投資に関しては、海外と比べて、日本は相当遅れをとっている印象を受けます
そのような状況を変えるうえでキーとなるのがテクノロジーです。私たちはデジタル化により事務作業の効率化、スケール化を促進し、複雑な投資プロセスをオンライン上でワンストップで完結できるデジタルプラットフォームを通じて、より幅広い方々、個人投資家や富裕層の方々などがオルタナティブ投資へアクセスできる世界をつくっていきたいと考えています。
テクノロジーの力で「オルタナティブ投資」をもっと手軽に
−−シデナムさんご自身がオルタナティブ投資のキャリアを歩んできた経験をお持ちですが、日本でビジネスを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
大きく分けて2つあります。
1つは、オルタナティブ投資のプロセスが煩雑だったことです。世界的にもそういう側面はありますが、特に日本国内は投資家サイドも含めてデジタル化が進んでおらず、たとえばポータルから情報を引き出す際もマニュアル作業が多く非常に手間がかかっていました。また言語の壁もあり、一つ一つの商品について内容を精査することにも時間がかかっていました。しかしこういった点はDX化で解決できる要素であり、私のようなデジタルの素人でも「テクノロジーを活用すればもっと便利になるのでは?」と思ったことがきっかけです。
もう1つは、機関投資家以外の方々にもより良い投資機会を提供したいと考えたからです。そのための手段のひとつとして、オルタナティブ投資のビジネスを検討しました。
−−流れとしては緩和傾向にはあるものの、海外と比較して日本ではオルタナティブ投資の規制が厳しいと言われています。今後、日本のオルタナティブ投資業界はどのように変わっていくと考えていますか?
「オルタナティブ投資」は名前のごとく(*1)メインストリームではない領域であることもあり、常に新しい投資戦略のイノベーションが起きています。規制が緩和されてきたと思うと、詐欺事件などが起こりまた規制が強化される、という追いついたり、追い越されたりという状況です。しかし重要なのは、投資家の方を保護する、目線を同じにすることだと考えています。したがって、たとえば「金融リテラシーを有すること」を規制の中に入れるなど、規制緩和をしたとしても知識のない人が意図していない投資をしてしまう、または悪徳業者に騙されることのないような枠組みをつくることは必要です。
将来的に投資業界全体が趣旨を理解して成長していけば、より良い投資機会に巡り合える可能性が高くなります。このように「オルタナティブ投資の民主化」と呼ばれる動きを活性化させていくことが私たちの役目です。
*1 英語で「代替」という意味
オルタナティブ投資への円安の影響
−−オルタナティブ投資に馴染みのない方たちからのアクセスを増やすためには、既に業界にいるプレイヤーの皆さんにも教育に力を入れていただきたいところですよね。
そうですね。関心の高い方が増えてきている感覚はありますが、同時に「ここだけの話だから」みたいな形で水面下で投資案件を紹介されることも増えてきています。オルタナティブという性質(*2)上、さまざまな商品が生まれていますが、そのすべてがクオリティが高いわけではありません。
私たちLUCAがまず提唱したいのは「インスティテューショナル・クオリティ」(機関投資家レベルの質)の投資案件の提供です。機関投資家が長い間付き合っているようなマネージャーへの信用力は高いですし、パフォーマンスや数字の収益性以外の意味でも信頼できますよね。投資の第一歩には安心感が欠かせませんので、LUCAは常にこの質を追求する存在になりたいと思っています。
自分で投資対象を選んで投資していくことができる人の数が、残念ながら日本ではまだ圧倒的に限られています。そのような方を増やすためには、やはり私たちのような業界の人間が、透明性の高い情報発信をしていくことが一番健全だと考えています。
*2 すなわち、メインストリーム以外の投資商品全てを指す
−−今後オルタナティブ投資の中でも御社には国内の投資家が海外のファンドにアクセスしたり、逆に海外の投資家が日本のファンドにアクセスできるような機会の提供も期待されていると思いますが、円安の状況は御社のビジネスにどのような影響をもたらすと考えていますか?
そもそも長期投資ですので市場連動性が低いため、為替の上下だけを切り取って考えることはないのですが、海外の投資家からはバリュエーションが一段と割安になっているように見えるかもしれません。一方、日本のベンチャーキャピタルで海外の投資家向けのIRを持っていない方も多いので、それらの方々に対して私たちがハブになって海外資金調達を推進していくことは充分に考えられます。
日本人で円を持っている投資家からすると、マインド的には海外への投資に対し少し後ろ向きになりがちですが、長期保有という観点から為替を円以外で持つ選択肢を検討することが重要なのではないでしょうか。
LUCAジャパンのストロングポイント
−−今後の海外戦略について教えてもらえますか?
日本国内の運用会社(VC、プライベートエクイティなど)の海外資金調達において、海外のマーケットとつないでいくことがまず挙げられます。
一方で、投資家を呼び込むプラットフォーマーとしては、アジアは十分にポテンシャルが高くなっていると考えています。人口動態、富裕層の存在、デジタル知識の有無など複数の要素が関わってきますが、たとえばインドのようにポテンシャルの高いマーケットへの挑戦も視野に入れていきたいと考えています。進捗としてはLUCAのプラットフォームβ版が昨年11月末にローンチしましたので、ようやく投資機会として検討していただけるようになりつつあります。今は1つしかファンドを取り扱っていませんが、今後4〜5ファンドと少しずつ増えていきますので、ぜひ体験していただきたいですね。
そのためにチームの拡大も考えています。特にエンジニアの採用ですね。これまでは外部に頼ってきた部分を、世の中のニーズに対して迅速な対応をするために、内製化を進めたいと思います
−−ちなみに、日本国内に競合企業は存在しないのでしょうか?
今のところ日本にはいないと考えていますが、海外のプラットフォーマーはどんどん大きくなってきています。今後彼らが日本に進出することも充分考えられるのではないでしょうか。
ただ、別にひとつのプラットフォームに限定される必要は全くないので、国内外問わずプラットフォーマーがどんどん増え、業界全体の認知度を上げていくことが重要と考えています。
−−LUCAジャパンの競合優位性としてはどのあたりだと捉えていますか?
いくつかあります。日本の投資家への理解が深い専門家を抱えていること、投資家に対する説明や教育が丁寧なこと、海外へのアクセスを念頭に置いていることなどが挙げられますが、最大の強みは日本におけるオルタナティブ投資のマーケットを熟知していることですね。
日本は規制も含めて非常に複雑で、ステークホルダーやプレイヤーも局所的に分かれているので、大きな方針だけでは動きにくい環境です。私たちは世の中のニーズや規模に合わせる形で事業を展開していきたいと考えています
日本の資産運用市場を世界水準に
−−今後の出資についてもお話を聞かせてください。Plug and Playの出資を受け入れたきっかけや理由を教えていただけますか?
もともとグローバル展開をしている投資家からは積極的に投資を受けようと考えていました。今後私たちが世界へ進出するときには、グローバル全体のスタートアップの視点やトレンドなどのサポートやアドバイスなどをいただけると非常に心強いので、その点に知見のある会社であったということが挙げられます。
あとは、Plug and Playブランドといいますか、アクセラレーターをはじめ、世間一般で言われるベンチャーキャピタルにはないような幅広い事業を展開しているので、いずれ相談に乗ってもらう機会が多いと考えたためです。
−−ありがとうございます。おっしゃる通りで、私たちはアクセラレーターからスタートし、ベンチャー投資にも力を入れ始めた経緯があります。たとえば投資したスタートアップに私たちのプログラムに入っていただき、大手企業を紹介するようなことも積極的におこなっていますので、今後私たちのプラットフォームからいろいろな支援をしたいと思います。では、シデナムさんが考えるLUCAジャパンの今後のビジョンについて教えてください
日本の資産運用市場を世界水準に高めるために、ポートフォリオの中にオルタナティブ投資商品を浸透させていきたいですね。まだまだ「オルタナティブ投資って何?」というレベルなので、「うちもやってるよ」と多くの方が答えられるようにしていきたいです。
「老後2000万円問題」なども叫ばれる中、長期での資産形成は非常に重要になってきています。機関投資家以外にはなかった長期資産運用の視点が浸透していくことで、ビジネスモデルも変わっていきオルタナティブ投資が世の中に浸透することを目標としています。
あとは海外展開ですね。北米や欧州以外の地域にあえてサービスを提供することも視野に入れています。「日本を海外に売り出す」という考え方は重要になっていくと思いますので、海外の投資家が日本のベンチャーキャピタル、ひいては投資先企業に関心を持って、シナジーが生まれていくような流れを作りたいですね。日本と海外のギャップを縮めて、フェアなアクセス、フェアな資産運用を実現していきたいと思います。