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京セラのオープンイノベーションに向けた取り組み

2023/09/06

日本を代表する電子機器・電子部品メーカーであり、多彩な製品ラインナップで知られる京セラ株式会社(以下、「京セラ」)。Plug and Play JapanではHealth、New materials、Smart Citiesのプログラムに参画しています。自社でもさまざまな方法でオープンイノベーションに取り組む中、社内外でのイノベーションを加速させるために、Plug and Playをどのように活用しているかについて、Health分野での取り組みを中心にお話を伺いました。


大崎哲広氏(写真右)

みなとみらいリサーチセンター 研究開発本部 オープンイノベーション推進部責任者

青山学院大学理工学部卒、1991年京セラ株式会社に入社。総合技術本部にてⅢ-Ⅴ半導体薄膜デバイス研究開発に従事。GaAs on Siデバイスの量産プロセス開発、量産立上げ、品質保証に従事。その後中央研究所(現けいはんなリサーチセンター)で半導体機能材料開発を経て2015年にソフトウェア研究開発組織「ソフトウェアラボ」の立上げに参加。2019年より現職。外部との共創を進めるオープンイノベ―ション推進業務に従事。


圓林 正順氏(写真中央)

みなとみらいリサーチセンター 研究開発本部 デバイス研究開発統括部 メディカル開発センター長 兼 社会実装開発センター長

九州大学工学研究科(修士)修了、1996年京セラ株式会社に入社。人工骨設計、製造技術を担当。日本メディカルマテリアル株式会社に出向し、研究開発、新規事業開発を担当。京セラ株式会社に事業統合後、メディカル開発センターにて生体材料や生体センシング、ヘルスケアシステムの開発を推進。2020年メディカル開発センター長。2022年より社会実装開発センター長を兼務。


武井 基樹氏(写真左)

メディカル開発センター

半導体部品(セラミックパッケージ)の規格/仕様検討・工程改善・品質保証等に従事し、部品製造事業における上流から下流まで多様な業務を経験。その後、研究開発本部に異動し、現在は、メディカル開発センター開発企画部において、将来的な研究・開発方針検討に携わる一方で、新規技術探索としてPlug and Play Japan(Kyoto拠点)にてHealthバーティカルのChampionを担当。


[Stats]
  • パートナーシップ開始: 2019年
  • バーティカル&ロケーション: Health / New materials / Smart Cities、Plug and Play Kyoto 
  • Plug and Play Japan採択スタートアップとのミーティング回数: 300回以上

分野横断型のイノベーション戦略

ーー京セラ全体ではオープンイノベーションにどのように取り組んでおられますか?

大崎氏:

京セラの関心分野は情報通信、自動車関連、 環境エネルギー、医療ヘルスケアの4つの分野に分かれています。それぞれに各研究部隊が紐づいて、オープンイノベーションに向けてアンテナを張っています。さらに、それ以外の領域へのアンテナを広げるためにも、Plug and Play Japanに参加しているオープンイノベーション推進部は、全社的な関心分野をフォローしつつ、それ以外の領域も全方位的にカバーするような包括的な動きをしています。

(画像提供:京セラ)

例えばバイタルセンシング技術があったとして、それを自動車で使ってもいいし、 医療で使ってもいいし、安全管理で使ってもいいですよね。 我々は研究チームの技術を医療の分野に応用したらどうなるのか、どう他と組み合わせられるのか検討するという部分を担っています。例えば、Plug and Play Japanプログラムのクロスバーティカルマッチングでは、スタートアップの所属テーマはInsurtechやSmart Citiesだけれど、そのスタートアップの技術を医療に応用してはどうかという提案をする役割ですね。

ーーみなとみらいリサーチセンターではどのような活動をされていますか?

圓林氏:

2019年にそれまでの垂直統合型の開発工程を見直し、横浜みなとみらいと京都けいはんなという2つのR&Dに特化したリサーチセンターをオープンしました。

(画像提供:京セラ)

みなとみらいリサーチセンターはシステムソフトウェア関連の研究所です。通信、エネルギーシステム、車載カメラなどが中心です。メディカル分野で言うと、医療ソフトウェア関連です。AI、生体センシング、診断システムなどを中心に研究しています。

けいはんなリサーチセンターはデバイスの研究が中心です。半導体などさまざまなセンシングデバイスが中心になる研究をしています。それ以外にも、2022年にオープンした鹿児島のきりしまR&Dセンターはセラミックなど、さまざまな特性を持つ材料研究を中心にしています。

組織内の壁を取り払う - 職域と関連しない研究発表会

ーーオープンイノベーション推進部はどういった活動をされていますか?

大崎氏:

年間100件以上のスタートアップや学術機関の方々とお話ししています。その中で弊社と何か関係がありそうな技術やプロジェクトがあれば、事業部や研究部に声をかけて、一緒に面談しています。オープンイノベーション推進部としては、研究部がその垣根を超えて、自分たちの研究を全社的発表できる場を作っています。オープンイノベーションで成功した方々や著名な先生方による講演会もおこなっています。そういった形で関心を外に広げているのが、まず一番の大きな活動です。

ーーメディカル開発センターとメディカル事業部はどう連携されていますか?

圓林氏:

京セラのメディカル事業は主に整形外科分野と歯科分野といった、体の中に入れるインプラント製品を中心にしたビジネスを展開しています。40年以上日本で事業展開しており、主に人工関節と歯科インプラントなどのクラスⅢ・Ⅳといった高度管理医療機器が中心の事業になっています。これまでのさまざまな共同研究と共同開発を通じて、国内の歯科や整形外科の先生方と得てきた信頼関係もあり、これらの分野に関しては強い事業基盤があります。

一方で、研究部の技術を医療の発展に役立てたいと、2017年にメディカル開発センターを研究開発本部の中に立ち上げました。 ここはインプラント技術だけではなく、バイタルセンシングやAI診断といった先進技術を医療分野でどう応用できるかを考えています。

ーー研究開発は自前主義が多いと言われますが、どのように社内風土の変革に注力されていますか?

大崎氏:

社内の取り組みの一つとして、4年目の社員に対して研究発表機会を設けています。自分の職域と関連のない課題を選んでもらい、1年くらいかけて好きなものを作らせて、社内で発表会をおこないます。例えば、材料研究をしている人がスマホアプリを作ってみるとか。ソフトしかやったことがない人がガジェットを作ってみるとか。アイデアを持ちより、 自分で実際に作る体験を通して、いろんなことを身に着けてもらう。またそこで先輩方と交流したり、その分野に精通している人からアドバイスをもらったりして、成長するきっかけになっています。

また、社内の技術者が自分の取り組んでいる技術や研究をアピールする場として、 技術シンポジウムをやっています。別の研究所の人たちも訪れて色々なディスカッションや、次のステップに向けたアイデアが生まれる場になっています。

圓林氏:

メディカル開発センターの会議では、部署外のメンバーも自由に参加できる会議体を取っています。今100名程の研究所員がいますが、デバイスやシステムなどさまざまな分野の人たちが同じ会議に出て、全く専門外のことについても興味を持ち、自由に意見をする場にしています。事業部門や間接部門の方からも意見をいただいたり、連携することを目指しています。

視野を広げ課題を発見 - スタートアップとの協業メリット

ーー京セラにとって、オープンイノベーションの必要性とはどのような点にありますか?

圓林氏:

技術者はどうしても、自分がやっている技術が一番いいと思ってタコツボ化してしまいがちです。直接的な利益や新事業に繋がることも大事ですけれども、R&Dの場合は実際に研究が世の中に出ていくまで時間がかかることが多いです。そういう点において、広い視野を持ち、スタートアップと繋がったり、異分野に取り組んでらっしゃる方々と交流したりするなど、自分たちが触れたことのない情報を手に入れる機会となるオープンイノベーションが大事だと考えています。

また、研究所の中にいると、リアルな課題を見つけていくことがすごく難しいと肌で感じています。現場に行って観察する中から課題に気付くプロセスが本来なら必要なんですが、どうしてもインターネット上の情報や文献を中心に考えてしまう。それを補う意味でも、現場の課題をよく知っているスタートアップと協業していくことが非常に重要になると思います。 スタートアップの皆さんの提案内容は、本当に切実な課題に向き合っておられる。すごく手触り感があります。「この人たちがこういうところで困っている」という現場に即した発信をいただくと、共感できることも多いので、そういうお話を聞くこと自体が我々の新しい気付きや視野の拡大に繋がると思っています。

ーースタートアップとのオープンイノベーションにおいて、どのようなことを期待されていますか?

圓林氏:

2つあります。まず我々の事業でやっている医療機器というのは、やはりモノづくりなんですよね。しかしこれからはデータが大事です。患者さんのデータが集まるプラットフォームがあれば、患者さんのことをより深く知れますし、医療関係者の方々へ治療に役立つ情報提供もできると考えています。しかしそれを自分たちが一から作ろうとしてもなかなかできない。すでにそういったものを展開しているスタートアップがあれば、そこと連携することによって、まずは整形外科分野への貢献ができるのではないかと考えています。

もう一つは製品やサービスを開発することです。我々も独自開発していますが、スタートアップの皆さんと協力することでより良い製品やサービスにできると良いですね。例えば、我々が持っているコア技術をスタートアップのデバイスに実装していただくことが可能かどうかを、今さまざまなスタートアップと相談しています。

特に医療機器ではないヘルスケア領域になると、やはりBtoCの製品が多いですよね。BtoCの事業経験が少ないので、我々の技術をスタートアップに提供して、スタートアップの事業が伸びていくのを足がかりにして当社も事業が拡大できればいいなと思っています。

ーーPlug and Playのプログラムを介したオープンイノベーションの事例はありますか?

武井氏:

患者さんの状態を測定する製品の販売開始に向けて協業を進めています。患者さんの状態を数値化し、医療関係者の方々の治療にご活用頂ければと考えています。またこの経験を活かし、さらなる事業の広がりも期待しています。

(iMUと京セラが販売基本契約を締結した歩行分析計 画像提供:京セラ)

我々が得意な部分とスタートアップが得意な部分を組み合わせて、より良いサービスを作ろうとしている事例もあります。自分たちの製品を世に出すために、スタートアップと連携することによって大幅に時間を短縮できるのがオープンイノベーションの可能性ですね。

率直さと目的意識 - 協業で重視するポイント

ーースタートアップと面談する際に注視するポイントはどのあたりでしょうか?

圓林氏:

評価のポイントとしては、エビデンスのレベルに注目します。規制当局の認可が取れているかは確認しますが、あまり大きな問題ではないと思っています。 米国FDAの申請が終わっているのは1つの目安にはなりますが、日本ですぐ販売ができるわけではありません。

エビデンスが確立されていない場合でも、非常にユニークな技術でしたら、一緒に検証していくことも考えられるかもしれないですね。非臨床のデータが揃っていれば、臨床での実績まで問うつもりはありません。 また、メカニズムが明確に打ち出せていれば、データの有無は辞退する理由にはならないです。むしろメカニズムがきちんと押さえられているところは信頼が置けますし、一緒に組んでみたい動機になりますね。

ーー提携方法はどのような形態を考えておられますか?

圓林氏:

スタートアップは売り上げ拡大や受注に繋がることを求めていると思うので、メディカル事業部の整形外科と歯科分野で、新商材として扱えるかが1つのポイントになります。海外拠点での販売協定も可能性としてはありますが、判断は事業部に委ねることになります。

整形外科と歯科以外の領域になると、我々も市場の課題を十分理解しているわけではありません。どんなニーズや課題があるのか、そこに我々の技術が使えるのかがわからないので、我々が黒子に徹して京セラの技術をスタートアップに利用していただくのも、一つの連携のあり方かと思います。
PoCを進める中で小規模な製品は作れるとは思いますが、実際に量産化するのは大変ですから、量産レベルでの生産ラインを持っている点で、我々が協力できることはあると思っています。

大崎氏:

整形外科・歯科分野以外のヘルスケア事業であっても、将来的に医療市場への展開を目指される場合など、弊社でレギュレーション対応が必要な事業は、メディカル事業部で対応することになると思います。ヘルスケア専属でやっている事業部は今ないので、今後そういうものが増えてくれば、事業体になっていくこともあるでしょう。

ーースタートアップからの提案では、どのような点を話してもらえると検討しやすいですか?

武井氏:

強みと弱みをクリアにお話頂きたく思います。弊社は多様な事業部門がありますので、適切な部門への連携をより具体的に検討できると思います。

圓林氏:

何をしたいかが明確だといいですね。 出資がメインなのか、それとも弊社との技術連携を求めているのか。そういったところがはっきりしていると、我々も明確な回答ができます。その上でお話を聞いて「ご提案されているのはこの用途だけれども、その技術はこういった分野にも活用できるかもしれません」という提案も可能です。最初は「何をしたいのか」をぜひお聞かせいただければと思います。

ーーどのようなスタートアップとの協業を望んでおられますか?

圓林氏:

整形外科と歯科という今取り組んでいる領域でも、インプラントのような治療に関わる技術だけでなく、治療後の社会復帰や予防など、まだやれることはあると思います。

実際に治療するときには、ロボットや診断技術などさまざまな技術とソリューションが考えられます。 そういったものを我々だけの力で開発していくのは難しい。医療課題に接点のあるスタートアップの方がより高いレベルのソリューションをお持ちだと思うので、我々の事業と連携する可能性をこれからも考えていきたいと思っています。

[参考リンク]京セラオープンイノベーションアリーナ

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