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デジタル推進人財を育成 小野薬品工業株式会社のDX戦略

2024/09/19

小野薬品工業株式会社以下小野薬品)は、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念の下、創業から300年以上にわたって患者さんに薬をお届けしてきました。医療ニーズの高いがん、免疫、神経およびスペシャリティ領域において創薬力の強化に努め、革新的な医薬品の創製を目指しています。そして、世界をリードする大学や研究機関とのオープンイノベーションによる研究・創薬提携を強化・拡充しているほか、新薬を世界中に提供できるよう、グローバル化を加速しています。そうした戦略を支えるべく、2022年度より成長戦略において「デジタル・ITによる企業変革」を掲げ、DX人財育成にも取り組んでいます。2023年度にはPlug and Playと協力し、DXを推進できる人材を育成するためのDX企画実践プログラムを実施しました。「患者さんとご家族」「医療従事者」「社員(ONO Team)」の体験価値向上に向けたDXの取り組みと、実際にプログラムに参加した社員の感想についてお話を伺いました。


Interviewee

(本文中敬称略)


大西 徹氏(写真左)

小野薬品工業株式会社 デジタルテクノロジー本部 デジタル推進課課長


結城 亮介氏(写真中央)

小野薬品工業株式会社 デジタルテクノロジー本部 デジタル推進課


亀山 尚明氏(写真右)

小野薬品工業株式会社 営業本部 営業管理部 営業情報戦略室 デジタル・AI企画課


Interviewer: 岩崎誠司 Seiji Iwasaki

Plug and Play Partner Success Manager, Health


Writer: Chiyo Kamino

Plug and Play Content Marketing Associate


小野薬品のDX戦略とは

ーー本日はDX推進ご担当の方と、DX企画実践型プログラムに参加された方、両方の視点からお話を伺えればと思います。はじめに、みなさんのご担当を教えていただけますか?

大西:

デジタルテクノロジー本部のデジタル推進課という部署に所属し、全社のDXのための様々な活動を行っています。数ある活動の一つとしてDX人財育成に取り組んでおり、DX企画実践型プログラムは2023年度から実施をしております。

結城:

大西と同じ部署で、DX人財育成をはじめ、DX企画実践型プログラムの運営に携わっています。

亀山:

私は営業本部のデジタルAI企画課に所属しています。昨年の9月まではMR(医薬情報担当者)として働いていましたが、その経験を活かし、現在はデジタル技術を駆使した営業活動の効率化に取り組んでいます。昨年の7月、MRとして業務を進める中でDX企画実践型プログラムの存在を知り、自ら参加を希望しました。

ーーDX推進活動はどのような方針に基づいて行っているのでしょうか?

大西:

弊社は、革新的な医薬品を世界中に提供し続ける「グローバルスペシャリティファーマ」を目指しています。DXはその実現に向けた「強力なエンジン」であり、「人の体験価値向上」に資する手段と位置付けています。DX推進の主役はR&Dや営業などのビジネス部門ですが、デジタルテクノロジー本部がこれらの部門と密接に連携し、共に課題を抽出・定義し、構想を策定する協力体制を築いています。

また、DX推進のための基盤強化にも力を入れており、データ分析基盤の整備やDX人財の育成、文化・気運の醸成などを進めています。今回ご紹介するDX企画実践型プログラムは、DX人財育成の一環として実施しており、ビジネス部門とデジタルテクノロジー本部が一体となってDXを推進する弊社のアプローチを体現したものです。これにより、全社的なDX推進活動がより効果的に進むことを目指しています。

ーーDX人財育成はどのように行っているのでしょうか?

大西:

2022年度に当社に必要な複数のDX人財像を定義し、それぞれで必要とされるスキルを整理したたうえで全社員を対象としたDX人財育成プログラムを策定しています。DX人財育成プログラムでは、①DX牽引(ビジネス変革のための課題領域を設定し、DXプロジェクトを企画・管理・遂行できる)、②DX参加(DXを理解し、DXプロジェクトに参加した際に重要な役割を果たせる)、③DX理解(デジタルテクノロジーの概要とビジネス変革の重要性を理解している)、の3つのレベルで研修を設計しています。DX企画実践型プログラムもDX人財育成プログラムの1つなのですが、想定以上に多くの社員が参加してくれました。

その背景には、「DXが全社的に重要な取り組みである」というメッセージが経営層から発信されていることに加え、本研修プログラムが自己研鑽ではなく業務の一環として業務時間扱いで参加することが認められていることが影響していると考えています。これによって、多くの社員が「じゃあスキルを磨こう」というモチベーションを持ちやすくなっていると思います。

大西氏

 

社外の専門家との対話を通じて、アイデアをブラッシュアップ

ーー今回実施された『DX企画実践型プログラム』の特徴について教えてください。

結城:

デジタル技術を使って業務を変革したい社員を対象に、DXの企画や進め方を含めて学べるプログラムです。DXに取り組みたいといっても、参加者のレベル感はさまざまです。「そもそも何から始めたら良いのかわからない」という者もいれば、「課題感は持っているが、どういった解決策方法、ソリューションがあるのか分からない」という者もいます。これらの一人ひとりに対して、デジタルテクノロジー本部とPlug and Play社が伴走をしながら一緒にDX企画を進める体制を整えました。インプットだけでは学びになりづらいので、参加者が自ら実際にDX企画を進めるという体験を重視している点が特徴だと思います。

結城氏

 

プログラム中には座学も一部ありますが、参加者自ら企画を進める比率を多くしています。参加者は、私たちやPlug and Play社とのアイデアのメンタリングを受け、アイデア毎にビジネスパートナーとディスカッションする機会が提供されます。参加者がスタートアップや大手企業といった外部パートナーとの対話を通じて、「こうやってDXの企画を進めるのか」と理解できる点が、実践型のポイントだと考えています。

大西:

テーマとして今回は、弊社のDX戦略にもある「患者さんとご家族、医療従事者、小野薬品やパートナー企業を含むONO Teamの体験価値向上」に繋がるデジタル活用をテーマにアイデアを考えてもらいました。また参加者個人が「こういった変革をしたい」と強く思える課題を設定することも重視しました。

ーープログラムを終えていかがでしたか?

大西:

去年初めてDX企画実践型プログラムをPlug and Play社と一緒に実施しましたが、外部の方々と協業に向けたディスカッションを研修プログラムの中でできるのは、本当に貴重な体験でした。参加者からも同様の声をもらっており、実際にデジタル技術を活用して事業を行っている方々との現場目線に即した対話を通して、実践的なDX研修に仕上がったと感じています。

結城:

多様な外部企業と連携できるプラットフォームを有していることが、Plug and Play社の大きな強みだと思います。DX企画実践型プログラムでは、ワークショップにて参加者が課題を抽出し、アイデア成長フェーズでは、それぞれのアイデアに即してスタートアップや大手企業からフィードバックを受け、その後の連携までワンストップで体験できる。これはPlug and Play社ならではの魅力的な点だと思っています。

プログラムの流れ

スタートアップとのマッチングのイメージ

現場の課題感をDXへつなげる

ーープログラムに参加された方のご感想もお伺いしたいです。課題提出など、通常業務との両立で大変だったことはありますか?

亀山:

このプログラムを知った時点で、会社全体としてDXを推進する流れを強く感じていました。コロナ禍以降、常に変化に対応することが求められる状況が続いていました。新型コロナウイルス感染症が流行した時には、従来できていたことができなくなり、それをどうカバーするか考えました。その中でデジタルを活用した業務効率化や医師との面会機会の維持に取り組みました。コロナの収束後は、医師やMRの働き方改革の影響で面談時間や業務時間が減少する中、質を落とさずに営業を行うことが新たな課題として出てきました。これは製薬業界全体の変化だと思います。

これらの課題に対して、DXで対応するのが最も合理的だと考え、上司に相談したところ「どんどんやっていこう」と積極的に背中を押してくれ、プログラムへの参加を決めました。もちろん既存の業務との両立は大変でしたが、周囲の応援もあり、プログラムを最後までやり遂げることができました。

亀山氏

企画段階では、自分の目の前にないテーマや思いつきのアイデアで進めるのは難しいと感じました。当事者に対するヒアリング調査もゼロからスタートする必要がありました。そのため、私は問題が明確で、身近な人に聞ける課題を選ぶように心がけました。例えば、私はMR時代に自らが体験していた市販後調査(PMS:Post Marketing Surveillance)に関する課題を選んだのですが、当時私を含む多くのMRが実際に困っており、そのため周りの人にも賛同が得られることに加え、電話1本で知り合いにインタビューできることが理由でした。

ーープログラム後の次のステップはあるのでしょうか?

大西:

プログラムの最後にアイデアの社内発表機会を設け、全社的に視聴者を募集して社員の関心を高め、フィードバックも頂ける場としました。プログラムで検討したアイデアをその後プロジェクトとして進展させる価値があるかどうかの判断は、ビジネス部門の意思決定が必要です。発案者が継続してプロジェクトに取り組むことに合意できれば、デジタルテクノロジー本部も各ビジネス部門と一緒に伴走して進めるという枠組みになります。

最終発表会資料例

結城:

これまでDXに興味はなかったけれどもプログラムに参加することで興味を持ち始めた、プログラム参加後にデジタルIT系の資格取得に励むようになった、という声を聞いています。このプログラムを通じて、DXに興味を持って自ら動ける社員が確実に増えたと思っています。

さらに何名かのプログラム参加者の上司からは、「部下がプログラムに参加してもらってよかった。仕事の仕方が変わった」との報告があり、本プログラムを通じて個人の成長と組織貢献の双方に繋がっていると手応えを感じています。

大西:

今回のDX企画実践型プログラムで出された22件の企画の内7企画は検討を前にすすめていくことになりました。例えば、生成AIを活用した特定業務用のチャットシステムを構築し、運用開始に至ったものや、研究業務におけるプロセスの一部自動化に成功したものなどがありました。DX企画実践型プログラムの参加者には、こういったご自身の業務変革に今後も継続して取り組んでいただき、社内でDX企画を牽引する人財として是非活躍して欲しいと願っています。

新しいことに挑戦する気持ちを持ち続ける

ーー今後のDX推進についてどのようなことを目指していますか?

大西:

DXはあくまで手段であり、私たちの最終的な目標は世界中の患者さんに価値を届けることです。これまで、DX人財の育成や全社的な生成AI活用環境、データ基盤の整備などを進めてきましたが、今後はこれらのデジタル技術の活用をさらに加速させ、価値の創出に貢献したいと考えています。そのためには、ビジネス部門とデジタルテクノロジー本部の連携を一層強化することが不可欠です。現在、より効果的な連携を実現するための取り組みを進めています。DX企画実践型プログラムはその観点でも貢献できると考えています。

 

ーー今年開催のDX企画実践型プログラムへ参加を検討している方に対して、メッセージをお願いします。

結城:

社員一人ひとりが、デジタル技術に関心を持つ状態にすることが理想ですので、DX企画実践型プログラムでDX企画の進め方を学び、DXを推進できるようになってほしいと考えています。もちろん組織全体のITリテラシーの向上に応じて、プログラムの在り方も変化させる必要があると思っています。現行のプログラムが会社の現状に適しているのか常に検討しつつ、社内環境や社会の変化に対応したプログラムを提供していきたいと考えています。是非、エントリーしてもらいたいと思います。

大西:

 例えば、私たち製薬会社の社員が患者さんに貢献できる重要な手段として、迅速に薬を開発し提供することが挙げられます。昨年の参加者からも、創薬や臨床試験などにおけるデジタルを活用した効率化・高度化に関するアイデアも寄せられました。これらは「患者さんとご家族の体験価値向上」につながるものです。

デジタル技術は、それ自体が価値を生み出すわけではありませんが「誰かの体験を良くしたい」という想いを実現するための強力なツールになり得るものです。

そのようなデジタルを活用した「体験価値向上」への熱い思いがあって、少しでもDXに興味がある社員のエントリーを期待しています。

亀山:

このプログラムは、DXに関する実践的なスキルを身につける貴重な機会だと思っています。私が経験した意識の変革に加え、プログラムを通じて得られる知識や経験は、個人の成長だけでなく、組織全体にも寄与するものだと感じています。私は現在、デジタル推進の業務に携わっていますが、現場の社員の方が私より日々の業務で直面する課題を肌で感じているのではないかと思います。新しいことに挑戦する気持ちを大切にしながら、ぜひ一緒に未来のデジタル社会を築いていきたいと考えています。

インタビュイーの3名

 

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