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Startup School #5 | 起業家に向いている人・向いていない人

2021/08/02


Zak Murase

Executive Advisor, Plug and Play Japan


どんな人が起業家に向いてるのか

コロナ以前はよく、日本からシリコンバレーに視察に来る学生や若い社会人の方々から「どんな人が起業家に向いているのですか?」という質問をされました。シリコンバレーに視察に来るくらいなので、おそらくみなさんなんとなく起業しようかどうか考えてはいる人達だったと思いますが、この質問の裏には「自分は向いていないのではないか」、あるいは「自分みたいな人間がやっても失敗するのではないか」という不安があったのではないかと想像します。

私なりの結論から先に言ってしまうと、「起業家に向いていない人」というのはいません。というより、むしろこれからの時代誰もが起業家になるべきだ、と本気で思っています。目指すは一億総起業家。日本が元気になるためにはこれしかないのではないかと。

「そんな簡単に誰でも起業なんて出来ないよ!」という声が聞こえてきそうです。スタートアップを創業する、というのは確かに大きな困難を伴いますし、世の中のスタートアップの9割は失敗する、と言われるのもあながち大袈裟な話ではありません。それでも起業し、困難を乗り越えて成功する起業家たちに共通するのは、人並外れた起業家精神の持ち主だということです。

でも「起業家精神」を持つこと、だったら誰でもできるのです。そしてこれからの時代、老若男女問わず誰もが持つべきものなのです。

「起業家精神」とは?

「起業家精神」とは何か?
ポッドキャストのシリーズでもこれを問い続けていますが、私なりの答えの一つは「現状に満足しないこと」だと思っています。
成功する起業家たちはものすごい熱量を持って新しいことに挑戦する人たちです。そして現状に満足するということがあり得ない人たちです。常に何か新しいことが出来ないか、改善の余地があるのではないか、ということを問い続けることで、困難に立ち向かうエネルギーを生み出しているのです。

「現状に満足しない」というのは「現状に不満はあるけど我慢する」とは同義ではありません。

現状の全てに満ち足りている人、というのはほとんどいないでしょう。誰もが何かしらの不満を持っているはずです。でも起業家精神の持ち主とそうでない人の違いは、その不満をバネに何か行動を起こすことができるかどうかなのです。不満を持っていても、多少我慢して現状維持をするのは実はものすごく楽なことなのです。
人間基本的には怠惰な生き物ですから、死ぬようなことにならなければ我慢できることというのは結構あるものです。もっと言うと、本当は不満に思っているようなことでも、慣れてしまうと感覚が麻痺してしまい、それが当たり前だと思ってしまう。そうなるとそれを疑うこと、変えようというエネルギーも生まれないのです。

現状に満足しないこと、それはすなわち当たり前と思っていることに対しても、本当にそれがいいことなのか、違うやり方もあるのではないか、と常に問い続けること、とも言えるかもしれません。

スタートアップ創業のきっかけ

以前就職活動前の大学生がシリコンバレーに来た時に「リクルートスーツを着るのをやめよう」とアドバイスしたことがあります。就職活動するならリクルートスーツを着るのが当たり前、あるいはみんなそうしているから安心、むしろリクルートスーツを着ない理由もない、と思っている人がほとんどではないでしょうか。
もしあなたが今就職活動中の学生だったら一度よく考えてみてください。
現状を疑ってみてください。本当にそれがいいことなのか?
スーツを着るなと言っているわけではありません。社会人としてきちっとした格好をするのにスーツはありでしょう。でも社会人になったら着る機会もないリクルートスーツをわざわざ購入するより、会社に入ってからも長く着られるスーツの方がいいと思いませんか?
平服でと指示があるのにわざわざスーツを着る必要がありますか?
リクルートスーツを着ていないという理由で落とすような会社に入りたいと思いますか?
リクルートスーツを着るのは楽です。でもそれは考えること、現状を疑うことを放棄しているのです。それこそが過去30年の日本経済の停滞を象徴している気がしてならないのです。

自分はそこまで批判的な精神を持ち合わせていない、あるいは現状を変えようというほどのエネルギーはない、という人もいるでしょう。大丈夫です。そんな人はとにかく自分の好きなことを追求することです。それも立派な起業家精神です。ただし、その好きなことというのが、世の中の誰かに必要とされていること、という条件付きです。世の中の誰かが、あなたのその好きなことに対して価値を認めて対価を払ってくれるかどうか、というのを真剣に考えてみましょう。グローバルでどんな人とでもすぐに繋がれるようになった今、どんなにニッチと思われることでも共感してくれる人、必要としてくれる人はきっといるでしょう。その道を極めてあなたにしか提供できない価値を創造できたとき、それがスタートアップ創業のきっかけになるかもしれません。

どんなに成功しているスタートアップも、最初はほんの小さな価値創造から始まるのです。これは起業家ではなくても誰でもできます。副業で何かを始めてみるのでもいいですし、今いる組織の中で何かちょっと新しいことをやってみるのでもいいのです。当たり前を疑う、新しいやり方を試してみる、自分が好きでやっていることを他の人にも使ってもらう、何でもいいのです。

そしてその何かを始めたら、それに対するフィードバックをもらいましょう。そしてそのフィードバックを元にあなたが提供しているものを改善していく。これを繰り返していくと、どこかの時点でもっとスケールさせることができるのではないか、と思える時が来るかもしれません。これも立派なスタートアップ創業のきっかけです。

リスクとポテンシャル

こういうことをやることが楽しい、もっと時間を使ってやりたい、同じことをやる仲間を探して一緒にやりたい、こう思えればもうあなたは立派な起業家です。

今あなたが安定した仕事についているのであれば、それを辞めるリスクを取ることには躊躇するかもしれません。失敗したらやり直しがきかないのではないか?収入がなくなるのではないか?社会的信用がなくなるのではないか?
一昔前はそういったリスクは確かに大きかったかもしれません。でも時代は確実に変わりました。今はそうしたダウンサイドのリスクは限定的です。週末起業という言葉もあるように、ある程度の道筋が見えてくるまでは週末や隙間時間を使ってやることも可能です。あなたが学生であれば、時間の使い方はあなた次第です。休学してスタートアップをやることだって可能です。失敗したらまた戻ってくればいいのです。

一方でアップサイドのポテンシャルは無限にあります。今まだスタートアップを始める人口の割合が他国に比べて圧倒的に低い日本においては、むしろ成功の確率は他国よりも高いでしょう。自分で始めるのは抵抗があるというのであれば、自分がやりたいこと、あるいはそれに近いことをやっているスタートアップを探して、そこにジョインするという道もあります。初期のメンバーとしてジョインすればある程度のエクイティも期待できるかもしれません。そのスタートアップがうまくいかなかったとしても、そこで学んだことを糧に次は自分で始めるというのもありでしょう。

最後に

最後にビル・ゲイツの有名な言葉を紹介します。

「私たちはいつも、今後2年で起こる変化を過大評価し、今後10年で起こる変化を過小評価してしまう。」

言い換えてしまうと、2年後に失敗しているかもしれないリスクを過大評価し、10年後に成功しているかもしれないポテンシャルを過小評価している、これが今の日本人ではないかと思うのです。小さいことから始めてみましょう。今の時代起業のハードルは本当に低くなりました。チャンスは誰にでも与えられているのです。

「起業家に向いているか・向いていないか」という問いはむしろナンセンス。可能性を掴もうとするのか、しないのか、それはあなた次第なのです。

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