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スタートアップとは何か? ベンチャーやスモールビジネスとの違いは?

2021/11/26

近年では多くの大手企業が、変則的かつ複雑に変化する市場環境に適応し、企業の競争力を強化するために、先進的なアイデアや技術を外部から取り入れ、新規事業創出・技術開発を加速させる「オープンイノベーション」に取り組んでいます。
その協業パートナーの1つとして、スタートアップと共創関係を結ぶ大手企業は増加していますが、そもそもスタートアップとはどのような企業なのでしょうか。本記事では、スタートアップについて紐解いていきたいと思います。

<目次>
・スタートアップの定義
・スタートアップを紐解く4つのキーワード
・スタートアップが描く成長曲線とは


Megumi Shoei

Marketing Manager


Chiyo Kamino

Content Marketing Associate


(2021/11/26 公開 2023/1/26 加筆修正)


スタートアップの定義

Y Combinatorの共同創業者であるPaul Grahamは、スタートアップを「急成長するものとして設計されている会社」と定義しています。
スタートアップを特徴づける要素としては、「革新的なアイデアでこれまでにない新たな価値を提供すること」、「短期間のうちに急成長することを目指していること」の二つが主に挙げられます。つまり、新しい製品やサービスによって社会にインパクトをもたらし、数年間のうちに指数関数的に企業価値を向上させるイノベーティブな企業のことを指します。

スタートアップとベンチャーの違い

スタートアップを定義する際、比較対象としてベンチャー企業との違いについて問われることがあります。スタートアップもベンチャー企業も、新しく事業を立ち上げ、ときには事業を拡大するために外部からの投資を受け入れて成長を目指すという点は共通しています。ベンチャー企業はスタートアップの一部であるとも言え、文脈によっては、同じ意味で使われることも多くあります。両者を分ける明確な定義はありませんが、その性質において以下のような違いがある傾向にあります。

成長カーブ

スタートアップはその言葉通り、事業がまだ新しく、市場に浸透していない初期段階の企業を指します。スタートアップは既存概念を覆す新しいアイデアを検証し、市場での受け入れを見込む段階であり、急速な成長が期待されています。スタートアップは製品やサービスの開発段階で収益をあげることはほぼ不可能なため、一定期間は収支で赤字を経験することになります。資金調達の際は開発中の製品やサービスが市場に受け入れられることで今後爆発的な成長を見込める可能性を証明することで投資家から資金を調達します。

一方でベンチャー企業は新しいプロダクトやサービスを開発し市場の新たなニーズを拡大していく点でスタートアップと共通する部分は多いものの、その成長カーブは基本的に既存市場の延長線上に存在します。既存のビジネスモデルを拡大していく形での安定的な成長を想定しており、その点において市場に新たなビジネスモデルを構築することを目指すスタートアップとは異なります。

資金調達

スタートアップの資金調達は主に初期の段階でシードラウンドやエンジェル投資家からの資金調達(エクイティ投資)が一般的で、成長するにつれてベンチャーキャピタルや投資ファンドからの大規模な資金調達を行うことがあります。このように、スタートアップの資金調達が革新的なアイデアにリスクマネーが流れ込む構造を持っているのに対し、ベンチャー企業は、既存のビジネスモデルを伸ばしていくという性質があるため、相対的に信頼性があると言えます。そのため、銀行からの融資によって資金調達が可能です。ただし、近年ではベンチャーキャピタルからの投資の落ち込みもあり、借入などによるデットファイナンスという資金調達方法に注目するスタートアップも増えてきています。

目的

スタートアップは新しいアイデアや製品を市場に導入し、成果を上げることが主な目的です。市場のニーズに対する新しい解決策を提供することが焦点となります。ベンチャー企業は既存の市場での立ち位置を強化し、企業の規模を拡大することが主な目的です。
両者の大きな違いとしては、スタートアップは新規性とイノベーションに焦点を当て、ベンチャー企業は既存の事業を成長させる企業を指します。ただし、これらの用語は文脈によって異なる解釈を受けることがあるため、特定の状況においては同じ企業を指す場合もあります。

スタートアップとスモールビジネスの違い

それではスタートアップと、いわゆるスモールビジネスとの違いは何でしょうか。創業期のスタートアップとスモールビジネスとはよく似ていますが、両者は異なる事業モデルや成長戦略を持つ企業の種類です。以下に、それらの主な違いをいくつか挙げてみましょう。

成長戦略と目的

スタートアップは急速な成長と拡大を目指す企業体です。イノベーションと新規性に焦点を当て、一時的に収益が赤字となっても大きな市場シェアを獲得することで後の黒字化を目指します。スモールビジネスは一般的に、急激な成長よりも持続可能な経営戦略や安定的な収益を追求します。

リスクと不確実性

スタートアップは通常、新しいアイデアや市場に挑戦するため、先行事例がなく事業に不確実性が伴います。「崖から飛び降りながら飛行機を作る」と形容されるように、いわゆるハイリスク・ハイリターンなビジネスモデルと言えるでしょう。反対にスモールビジネスは、既存の需要や確立された市場で事業を展開するため、リスクや不確実性が低いといえます。

資金調達

スタートアップはベンチャーキャピタルや投資家から資金を調達することが一般的です。初期段階では、政府の補助金やエンジェル投資家からの資金調達も行われます。スモールビジネスはしばしばオーナーの個人資金や銀行融資などを活用して資金調達を行います。規模が小さく、急激な成長を追求しないため、大規模な投資を必要としません。

企業文化

スタートアップはアイデアの実現や成長の追求に重点を置くことが一般的で、柔軟性とスピードが求められるアジャイルな組織文化が特徴的です。ビジネスモデルやプロダクト/サービス内容を大きく変えたり(ピボット)、経営陣が入れ替わることもままあります。スモールビジネスはしばしば地域に密着し、オーナーの経営哲学や価値観が強く反映された組織が形成されます。経営者が入れ替わることはほとんどありません。

スタートアップは急速な成長とイノベーションを追求し、リスクを取りながら新規市場に挑戦する企業です。スモールビジネスは安定性と持続可能な収益を目指す企業であり、既存の市場で地道な経営をおこなう点がスタートアップとの大きな違いです。

スタートアップを紐解く4つのキーワード

①課題発見

社会に新たな価値を創出し、急速的に成長するのがスタートアップです。
そのため革新的な事業アイデアは、スタートアップにとって今後の成長を決める最も重要なファクターと言えます。しかし良いアイデアに思えたとしても、そこに本質的なユーザーペイン(=課題)がなければ、それは課題なきソリューションであり顧客ニーズに繋がらず、短期間での爆発的な成長を目指すことは難しくなってしまいます。
既存概念の延長線上ではなく、WHY(課題)を起点にソリューションを考える、本質的な課題発見能力が事業アイデアを着想するうえで、キーポイントとなります。さらに発見した課題は、必ずしも顕在化されているものばかりではありません。UberやAirbnbが創業した当時、その事業アイデアに多くの人が異を唱えましたが、2019年には時価総額約7兆円でUberが上場し、2020年にはAirbnbは約10兆円で上場し、世界から注目を浴びるほどの企業となりました。
そのため現時点では突拍子もないアイデアに思えたとしても、端から否定するのではなく、一度アイデアを受け入れ、共に考えることがイノベーションの種を探すうえで必要だと言えるでしょう。

②仮説検証

課題発見後は課題検証を行い、課題が明確に存在するとなれば解決するソリューション、つまり将来的な事業アイデアの種を考えます。その後はさらに、MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる「顧客に価値を提供できる必要最小限の製品やサービス」を用いて、顧客ニーズを深堀りしていきます。
MVPを経てある程度プロダクトが完成してくると、適切な市場で顧客のニーズを満たしているのか、PMF(Product Market Fit)を検証します。
このようにスタートアップは仮説と検証を何度も繰り返します。
Facebook創業者であるMark Zuckerbergの言葉に「Done is better than perfect(完璧を目指すよりまず終わらせろ)」という有名なフレーズがありますが、<スタートアップはプロダクトを作り込むよりも、まずは早くリリースし、ユーザーの声をもとにアジャイル的に改善を繰り返すことで、ユーザーが心から欲しいと思えるプロダクトに磨き上げていくことを重要視しています。走りながら考え、走りながら変化していきます。

③スピード

スタートアップ=急成長するためにデザインされたスケーラブルな組織であり、スピードは資金が限られているスタートアップにとって成功するうえで必須です。
ユーザーからのフィードバックやデータを元に、高速にPDCAを回すことで変則的な市場変化や変わりゆく顧客ニーズにも迅速に対応でき、倍の速度で成長することが可能になります。大手企業とスタートアップが協業するうえで、この「スピードの違い」によるコミュニケーションのズレが起きることがあります。
共にプロジェクトを進めていくうえでは、お互いの進め方や進めるスピードの違いを共有し、期待値をすり合わせながら進めていくことが必要となります。

④出口戦略

スタートアップはその事業計画の中に出口戦略を持っていることが特徴です。スタートアップが成長し、上場あるいは買収されることを一般的に「EXIT(エグジット)」と呼びます。スタートアップの 「EXIT」 は、通常は株式公開 (IPO)または買収(M&A)を通じておこなわれます。これにより、投資家や創業者は株式や企業の売却価格に応じて投資を行った資金を回収し、利益を得ます。EXITは、スタートアップの成功の指標と見なされています。

スタートアップが描く成長曲線とは

上述したようにスタートアップがプロダクトを生み出すまで幾つもの仮説検証を繰り返す期間は、赤字となることもあります。一気にスケールするためには踏むべき必要な期間とも捉えられます。

SasSスタートアップの理想的な成長モデルを表すうえで、「T2D3」という言葉が用いられますが、これはTriple Triple Double Double Doubleの略であり、年間の売上が毎年3倍×3倍×2倍×2倍×2倍=5年で72倍となることが成功モデルと考えられています。

このように、これまでの経験からリスクコントロールをしつつ確実に利益を生み出す大手企業に対し、イノベーションを起こすことを念頭に、時には既存の社会ルールも破壊するようなアイデアで、リスクを取りながらも数年で大きくスケールしていくスタートアップは対照的な存在と言うことができるでしょう。

日本のスタートアップの状況

日本のスタートアップは、過去10年間で見ると企業数や資金調達社数、調達額が増加している傾向にあります(*1)。 国内VCの投資額は2022年に9459億円と過去最高の投資額を記録しました。2023年は前年に比べ投資額はやや落ち込んだものの、政府から「新しい資本主義の
グランドデザイン及び実行計画」が発表されるなど(*2)、スタートアップへの日本国内の関心は依然として高い状況にあります。日本においてスタートアップから成長して大企業になった成功例としては、楽天やサイバーエージェント、メルカリなどがあげられます。

しかし、ユニコーン企業(企業価値10億ドル超の非上場企業)数は2022年の時点でアメリカ554社、中国174社、インド64社に比べて、日本は10社と少なく、他国との差が開いている状況です。また、デカコーン(企業価値100億ドル超の非上場企業)数はアメリカに29社、中国に10社ある一方、2023年時点で日本には存在しないため、スタートアップの企業価値の側面でも世界との差がある状況です(*3)。

日本政府はこのような国内スタートアップの課題を認識し、国の重要な経済成長のドライバーであるスタートアップを支援するためのさまざまな支援戦略を推進しています。スタートアップが成長するためには、人材、資金、サポート・インフラ(メンター、アクセラレーター、インキュベータ)、コミュニティなどのスタートアップ・エコシステムが必要です。日本政府はスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成、大学中心のエコシステムの強化などの戦略を展開しています。また、地方発スタートアップの活発化のための施策も多くおこなわれています。

日本でいまスタートアップが注目されている理由

岸田文雄首相は、2022年初頭の記者会見で、2022年を「スタートアップ創出元年」と呼ぶと演説しました(*4)。日本政府は2022年8月1日にスタートアップを支援するための新たな大臣ポストを設置(*5)。また、政府からの補助金や助成金も、アーリーステージのスタートアップから後発のスタートアップまで、様々なレベルで増額されています(*6)。また、指定都市で起業する起業家のためのビザ要件を緩和しており、海外の起業家を日本に呼び込もうという動きがみられます。

グローバルでは多くの投資家もこの戦略に従っています。2021年、日本のスタートアップへの投資総額は49億米ドルから71億米ドルに増加し、2020年比で46%増となりました(*7)。日本の大手企業もスタートアップを買収しています。2021年、スタートアップの買収件数は136件に達し、過去5年間で最多を記録しました(*8)。

バブル崩壊後失われた30年の間に、グローバル市場における日本企業のプレゼンスは大きく後退しました。日本が国際的競争力をふたたび高め、来る少子高齢化社会の中で経済力を保持しつつ成長し続けていくためには、かつて日本の製造業がそうであったようにグローバル市場でインパクトを与えることのできるスタートアップの活躍が求められています。

まとめ

最後にあらためて、スタートアップとは何かについてまとめてみましょう。

  • スタートアップとは、革新的なアイデアでこれまでの世の中にない新たな価値を提供し、短期間のうちに急成長する企業。
  • 存概念の延長線上ではなく、WHY(課題)を起点にソリューションを考える、本質的な課題発見能力が事業アイデアを着想するうえでキーポイント。
  • 現時点は突拍子もないアイデアに思えたとしても、端から否定するのではなく、一度アイデアを受け入れ、共に考えることがイノベーションの種を探すうえで必要。
  • スタートアップはプロダクトを作り込むよりも、まずは早くリリースし、ユーザーの声をもとにアジャイル的に改善を繰り返す。
    ・スピードは資金が限られているスタートアップにとって成功するうえで必須。
  • 高速にPDCAを回すことで変則的な市場変化や変わりゆく顧客ニーズにも迅速に対応でき、倍の速度で成長することが可能。
  • プロダクトを生み出すまで幾つもの仮説検証を繰り返す期間は、赤字となるが、一気にスケールするためには踏むべき必要な期間。

上記のように企業文化や問題解決へのアプローチ方法といった点で大手企業とスタートアップは大きく異なり、それぞれの強みを生かして協業することが両者の成長につながります。

Plug and Playでは、550社以上の世界中の大手企業へ、年間約2500社のスタートアップを紹介しています。大手企業とスタートアップにヒアリングをおこなったうえで、双方にとって有益な協業につながるよう、両者の間に入り調整をおこなう役目を果たしています。

また、両者のスムーズな連携を促進するため、大手企業向けにスタートアップに対する理解を深めるセミナーやイベントを開催しています。ご興味のある方は、ぜひ弊社のイノベーションプラットフォームへご参加ください。

<参考文献>

*1) スタートアップ・エコシステムの現状と課題
内閣官房 グローバル・スタートアップ・キャンパス構想推進室
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/campus/yusikisya_kaigi/dai1/siryou2.pdf

*2) 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版
内閣官房 スタートアップ育成ポータルサイト
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf

*3) VCの視点から見たスタートアップの現状と課題
総務省情報通信審議会 総合政策委員会
https://www.soumu.go.jp/main_content/000862642.pdf

*4) Editorial: Japan PM Kishida’s New Year’s speech plays it disappointingly safe
January 5, 2022 (Mainichi Japan)
https://mainichi.jp/english/articles/20220105/p2a/00m/0op/024000c

*5) Japan creates new Cabinet post to boost startup ecosystem
August 1, 2022 (Japan Times)
https://www.japantimes.co.jp/news/2022/08/01/business/daishiro-yamagiwa-startup-minister/

*6) Japan looks to take startup ecosystem to next level with more government help
August 10, 2022 (Japan Times)
https://www.japantimes.co.jp/news/2022/08/01/business/japan-startup-ecosystem-progress/

*7) Japan Startup Funding 2021: 1 Trillion Yen Milestone Within Sight
March 3, 2022 (INITIAL)
https://initial.inc/articles/japan-startup-funding-2021-en

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