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多言語コミュニケーション支援SaaSのセキュリティ強化に貢献|株式会社PID×三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社 協業事例インタビュー

2022/10/07

株式会社PID(以下「PID」)では、アプリ不要でチャットができる多言語コミュニケーションSaaS「Dicon」を展開しています。同サービスへのログイン時のセキュリティを強化するために導入したのが、三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社(以下「MDIS」)が開発した電話発信認証サービス「TELEO」です。当初は賃貸物件の入居者への連絡などで活用される不動産テックとして生まれた「Dicon」ですが、このセキュリティ強化によってコミュニケーション効率化ツールとしてさらに進化し、不動産以外の新たな領域での可能性が広がっています。「Dicon」は2022年度のグッドデザイン賞を受賞されました。

今回は、スタートアップ企業が開発したSaaSに、大手企業のソリューションが導入されるという、通常とは逆の新たな形での協業とも言えます。協業が生まれた背景や導入に至ったプロセス、今後の展望などについて、MDISの村本氏、三菱電機株式会社の早川氏、PIDの嶋田氏、日向野氏にお話を伺いました。


Writer: Akiko Sekiguchi


村本 勝也氏

三菱電機インフォメーションシステムズ株式会社 第一サービス事業推進室

情報セキュリティ製品の企画、マーケティング、ソリューション営業を経た後、金融機関のアカウント営業として情報セキュリティ及び各種サービスシステムの導入に従事。 その後、Fintech関連の新規事業創出を皮切りに、イノベーション全般の推進活動に領域を広げPlug and Play Japanのチャンピオンとして参画。


早川 徹氏

三菱電機株式会社 インフォメーションシステム事業推進本部

コンピュータ製品の販売、半導体製品の販売・企画業務を経て、インフォメーションシステム統括事業部における営業支援・計画業務を担当。その後、Plug and Play Japanのチャンピオンとして参画し、新規事業の創出に向けた活動に従事。


嶋田 史郎氏

株式会社PID 代表取締役 公認会計士・税理士

PwC/中央青山監査法人にて東証及びNYSE上場企業を中心に会計監査、財務DD及び日米SOX導入コンサル等に従事。その後、スタートアップの企業価値算定、組織体制構築、事業戦略・財務戦略の立案並びに事業改善に携わり、4社を黒字転換に導く。決済系スタートアップのアララ㈱(東証G)の戦略・財務担当取締役を経て、ESGテックのPIDを創業。情報検索に関する特許を3つ発明。


日向野 岳氏

株式会社PID ディレクター /サービス事業本部 副本部長

約24年間IT業界に従事。3社のベンチャー企業に在籍し、内2社が上場。主に、CS職、営業職、技術職の複数の職務を経験し、上場に貢献。直近では、東証グロース上場会社の執行役員営業本部長として組織構築、事業推進、事業戦略立案、株式上場準備及び上場準備後の売上拡大の中心メンバーの一人として活躍。「Dicon」グッドデザイン賞ディレクター


協業のきっかけと新たな価値を生んだ「スマホつながり」

ーー協業の背景についてお聞かせください。

村本氏:

最初のきっかけはPlug and Play Japanのイベントで、そこでは20社ほどの企業と面談をしながら、各社の特徴をお聞かせいただきました。その中で特にユニークなソリューションサービスだと感じたのがPIDの「Dicon」で、キーワードとして気になったのが「多言語コミュニケーション」です。コロナ以前は海外からの観光客や外国人労働者の数が増える中で、外国語が話せない人も多い日本で、どのように円滑にコミュニケーションを取っていくのかというのは社会課題だと感じていました。そうした背景もあって「Dicon」に興味を持ち、詳しくお話をさせていただいたのが入り口です。

嶋田氏:

三菱電機が幅広い技術をお持ちであることは伺っていて、ホームページのソリューション事例なども拝見する中で、目に留まったのがセキュリティ技術です。当時、「Dicon」はプロダクトとしてセキュリティに課題を抱えていました。「Dicon」の特徴は、アプリをダウンロードする必要がなく、SMS(ショートメッセージ)とスマホブラウザでのチャットでコミュニケーションが取ることができます。なので、同じくスマホの電話機能を使って認証できる「TELEO」に興味を持ちました。

村本氏:

MDISは、主に金融業、製造業、流通・サービス業向けのシステム事業を展開しているのですが、新規事業を創出する組織もあって、そこで取り扱っている商材の一つが「TELEO」です。登録済みの電話番号から認証用の電話番号に発信するだけで認証できるという仕組みです。電話回線というのは成りすますことができないため、電話をかけるという非常に簡単な操作で本人認証が可能になります。

協業を進めるためには社内で話を通す必要があるのですが、大きなポイントになったのが、「スマホつながり」です。どちらもスマホをキーとして、電話発信認証を行う「TELEO」とSMSを使う「Dicon」なら関連性が見出しやすく、新しいソリューションを生み出せるのではとアピールしたところ、すんなり受け入れられました。

さらに、NDA(秘密保持契約)を締結後、我々のサービスと連携できるか検証していただいた結果、問題なく進めることが早い段階でわかったことも大きかったですね。そこからリリースまで1年以上はかかりましたが、ともにビジネスの将来像を描きながらスムーズに進めることができました。

(資料提供:三菱インフォメーションシステムズ株式会社)

ーースタートアップ企業の技術やソリューションを大手企業側で取り入れるという協業はよくありますが、今回は逆の形になります。どんな風に進められましたか?

嶋田氏:

当社ではこれまでも大手企業何社かと検討を進めていましたが、大変な時もあるというのが正直なところです。大手企業と組む場合は、どうしてもこちらから大手企業側に寄らないといけない場面が多く、時間や労力を取られて、時に本業の開発に影響を及ぼしてしまうということもありました。でも今回MDISとスムーズに進められたのは、我々のプロダクトストーリーの延長線上だったということが大きいと感じています。新しい製品を作るのではなく、もともとある当社製品の付加価値を高められるという位置付けなので、無理に大手企業に寄る必要がなかったこともあり、ぜひやらせていただきたいという話になりました。

ーーMDISや三菱電機側ではどんな体制で取り組まれたのですか?

早川氏:

私は三菱電機株式会社のインフォメーションシステム事業推進本部に所属し、Plug and Play Japanと契約をして、スタートアップとの協業などの検討を行っています。村本は同じ部署に席を置きながらも、MDISというより事業に近い立ち位置で新規事業の創出に取り組んでいます。今回は私が着任する前の2020年6月頃より村本とPIDの間で個別に話が進んでいたので、村本に全面的に任せる形でプロジェクトを進めてもらいました。

協業によりスタートアップの情報セキュリティレベルも向上

ーー途中で頓挫してしまうプロジェクトもありますが、成功した要因はどこにありましたか?

村本氏:

最初に「Dicon」というツールを見た時から非常にユニークさと価値を感じたことが大きかったと思います。コミュニケーションにはさまざまなツールがありますが、SNSはアプリを持っている人同士でなければ会話が成り立たないし、固定電話はその場にいないと受けられないし、電子メールは見ない人もいる。しかも言語が違えば分かり合えない。でも「Dicon」は、アプリがなくても成立して、自分が設定した言語で届くので、何を言っているのかも理解できる。コミュニケーションが確実に成立することに配慮したサービスになっている。これはストーリーを描ければ面白いビジネス展開ができると確信したことが、ディカッションを継続していくモチベーションになりました。

日向野氏:

嬉しい話ですね。当社のサービスの原点は、プロパティコンシェルジュという多言語AIチャットボットというテーマでスタートし、そこから機能を増やすよりも、徹底してユーザーインターフェースにこだわって改善を続けてきました。私たちの開発の本質は、ユーザーがボタンを押す回数をいかに減らせるかにあるんです。この考えがコミュニケーションツールとしてのユーザーの使いやすさにもつながっているのだと思います。

ーー協業したことでプロダクトの進化以外に、どのような価値が生まれましたか?

嶋田氏:

今考えると、Plug and Play Japanのプログラムに参加していた頃は、情報セキュリティの面で甘い部分が多かったと感じています。大手企業との連携においては、ビジネスや製品としてはもちろんのこと、組織としての在り方も成長を求められることが多く、MDISからは「プライバシーマークを早く取得したほうがいい」といった指摘を受け、本取り組みだけではなく当社事業全体に対する学びがありました。

村本氏:

個人情報の取り扱いが絡むとリスクが高くなり、会社として非常に慎重になるので、個人情報保護法のガイドラインを片手に何度もディスカッションをさせていただきました。

嶋田氏:

通常こういった大手企業とのアライアンスの場合、事業担当がメインになりますが、今回のプロジェクトでは当社から管理部門のトップも参加しました。別途、情報セキュリティチームを立ち上げて取り組み、情報セキュリティの観点でさまざまな議論や取り組みを行いました。当社はスタートアップなので、さまざまな企業からの転職者がいますが、大手企業出身者はMDISから求められることが理解できるんです。でもスタートアップの出身者は、情報セキュリティの感覚値が違う。今後、広い世界で戦っていくためには大切になるので、社員の意識に対する啓蒙活動としても非常に価値があったと思っています。

また今回の協業を通してセキュリティ機能が整ったことで、大手企業からの引き合いが増えています。先日は医療業界の上場企業からの引き合いもあり、セキュリティレベルが上がらなければ、まず声が掛からなかった案件だと思ってます。

不動産テックから、コミュニケーションイネイブラーへ

ーー今後の展望について教えてください。

日向野氏:

もともと「Dicon」は「不動産テック」という位置付けで展開していたのですが、今回のアライアンスをひとつのきっかけとして、新たにコミュニケーションツールとして事業テーマを変えて、今後はコミュニケーションイネイブラーとして展開していきたいと思っています。具体的には、これまでの賃貸不動産の管理会社に対するサービス提供は続けながら、コールセンター業や各種サービス業にもマーケットを広げて、包括的なコミュニケーションのサポートをしていきたい。プロダクトとしては、これまでは当社が提供する管理画面を通してチャットをしていただくため、取引先企業はパソコンの画面を開いていただく必要がありました。今後は全部API化して他の管理システムに埋め込むことで、「Dicon」の管理画面を開かなくても、裏側で「Dicon」が翻訳し、ブラウザでチャットができるという仕組みにしたいと考えています。

嶋田氏:

目指すのは、コミュニケーションのDXによって、コミュニケーションコストを下げるという業務改善です。「Dicon」という製品のもつユニークさや機能に価値を感じていただいているので、コミュニケーションイネイブラーとしてお客様のニーズはあるのではと考えています。

村本氏:

「Dicon」の仕組みを当社のクライアントに紹介しながら、次のビジネスの可能性を探っていきたいと思っています。PIDとは今も定期的に話を進めていて、次のステップも考えています。

先ほどの嶋田氏のイネイブラーの話もワクワクしますね。サービスの連携だけでなく、APIをつなぐ場合、つなぎ先のアプリケーションを変更するというSIerとしての商談の機会も増えたらいいですね。

ーー今回の取り組みについて、三菱電機の社内ではどのような反響がありましたか。

村本氏:

こういう連携の仕方もできるんだという社内的な気づきが生まれたと感じています。「TELEO」という商材目線からしても、単純にSIerとして認証サービスをお客様に導入していただくというだけでなく、SaaSに組み合わせるというビジネスのスタイルがあるという発見がありました。さらに、こういう取り組みをしていることを社員がお客様に伝えることで、新たな側面での当社への理解が進んでいます。三菱電機というと堅い会社だと思われがちなので、それだけじゃないということを伝える良いイメージにもなっているのではないでしょうか。

ーー最後に大手企業と協業したいスタートアップ、もしくはスタートアップと協業したい大手企業に対して何かアドバイスはありますか?

嶋田氏:

スタートアップの方に伝えるとしたら、思っているより大手企業の担当者は話しやすいですよということですね。実際に私たちもお話する前は、とても堅いイメージを持っていました。でも話をしてみると、新規事業のタネを本気で探していることが伝わってきましたし、丁寧に話していけば、いいものが生まれていくんだと実感しました。

村本氏:

今回は特に製品のユニークさがあったことが、より話しやすさにつながったと思います。面白い商材なので、「こんな風に使えますね」といった利用シーンの話は盛り上がるもの。そこでディスカッションできたので、ビジネスにも落としやすい部分がありました。

早川氏:

三菱電機は幅広く事業をやっているので、IT事業に閉じて活動するのはもったいないと感じています。せっかく色々なスタートアップとお付き合いする機会があるので、ここでの取り組みや機会を他の事業本部にも展開していきたいと個人的には考えています。スタートアップの方々と話すとそのスピード感に驚かされますし、自分たちのやり方は三菱電機特有のものだという気づきを得ることが多々あります。こうした気づきを三菱電機の中で広げて、外を向いて仕事ができる雰囲気づくりをしていきたいですね。

(写真左から:PID立枕氏、日向野氏、嶋田氏、三菱電機 村本氏、早川氏)

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