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日本の起業家のダイバーシティを高める挑戦とその意義とは

2022/11/09

ダイバーシティ推進が求められる今、スタートアップ業界においても性別・年齢を問わず、自由に起業できる環境を作り出すことが求められています。今回は日本の起業家人口の多様化と向き合っているANRI代表パートナーの佐俣アンリ氏、SUMISEI INNOVATION FUND事業共創責任者の藤本宏樹氏、株式会社RABO代表取締役の伊豫愉芸子氏をお迎えして、起業家のダイバーシティを高める意義、そして多様化していくスタートアップエコシステムの中で起業家が新しい創造に挑戦していくための課題点についてディスカッションしていただきました。

(本記事は2022年9月12日に実施された「Japan Summit – Summer/Fall 2022 Batch」FoundHER Sessionの内容をもとに作成しています)

*FoundHER: Plug and Play Japanが推進する、起業家精神を持つ女性をサポートするイニシアティブ。投資家、メンター、起業家のグローバルネットワークを構築しリソースを提供することで、スタートアップ・エコシステムにおける女性たちが新しい創造に挑戦できる機会を拡大することを目的としている。


Moderator: 李 暢(チャン・リー)

Plug and Play Japan 株式会社 Director Fintech / Insurtech

中国四川生まれ、大学から日本に。2012年に新卒で大手生保会社に入社し、東京・ニューヨークで資産運用やクロスボーダーM&Aに従事。香港大学MBA在学期間中シリコンバレーのInsurtechスタートアップの日本進出を支援。2018年12月にPlug and Play Japanへ入社し、日本のInsurtechエコシステム作りに励んでいる。P2P保険プラットフォームのスター トアップFrichへの投資を担当。


Speaker: 佐俣 アンリ氏

ANRI 代表パートナー

慶應義塾大学卒業後、East Venturesを経て2021年にベンチャーキャピタル ANRIを設立。独立系ベンチャーキャピタルとしてインターネット及びディープテック領域220社以上に投資実行。シードステージ投資に特化し、5つのフラッグシップファンドと気候変動・環境問題に特化した ANRI GREEN ファンドを立ち上げ、現在、累計約550億円を運用中。主な投資先は Layer X、NOT A HOTEL、STORES、Mirrativ、Rentio、ARCH がある。 日本ベンチャーキャピタル協会理事。 著書に『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社)


Speaker: 藤本 宏樹氏

住友生命保険相互会社 上席執行役員兼 新規ビジネス企画部長/SUMISEI INNOVATION FUND 事業共創責任者

住友生命入社後、通商産業省(現、経済産業省)出向、秘書室長、経営総務室長等を経て、2011年に新ブランド戦略立ち上げに携わり、2013年のブランドコミュニケーション部長。2017年に日本最大級の広告賞である「ACC TOKYO CREATIVE AWARDS」において、総務大臣賞/ACC グランプリ受賞(フィルム部門Aカテゴリー)。2019年4月から新規ビジネス企画部にてオープンイノベーションを推進。2020年11月にCVCファンドを立ち上げ、その事業共創責任者に就任。2021年4月から現職。


Speaker: 伊豫 愉芸子氏

株式会社RABO 代表取締役

東京海洋大学大学院博士前期課程修了。東京大学大気海洋研究所 佐藤克文教授のもと、ペンギンやオオミズナギドリに小型センサーをつけ行動生態を調査するバイオロギング研究に従事。大学院修了後、株式会社リクルートに新卒入社し、インターネットサービスの企画やプロダクト設計、新規事業開発を担当。2018年2月22日の猫の日に、株式会社 RABO を創業。猫様と20年以上一緒におり、ショートヘアソマリ♂のブリ丸とベンガル♂のおでんと暮らしている。一般社団法人日本ペット技能検定協会認定キャットケアスペシャリスト/キャットシッター資格所有。


Writer: Haruhito Suzuki

Marketing & Communications Intern


女性起業家が直面する資金調達の難しさとその構造の課題

ーー李:金融庁の資料によると、現在日本では起業家における女性比率は30パーセント以上ですが、資金調達に至る企業や新規上場企業の社長比率を見ると1〜2パーセントに急減します。伊豫さんは、実際に起業されている女性ですが、マイノリティとして資金調達がやりにくいと感じたことはありますか?

伊豫氏:

私個人の感覚としては、女性という社会のマイノリティーと言われている立場においての課題感や、それによる資金調達の難航みたいなことは1度も感じたことはないです。 

先週も東京都主催のAPT Womenという女性起業家サポートプログラムのキックオフイベントで先輩起業家の立場からお話しましたが、40人ぐらいの方が参加していて、 今の日本にはたくさんの女性起業家が生まれているのだと感じました。とはいえ、資金調達であったり、一定のステージを越えていく女性起業家となると、数が絞られている事実がファクトとして出ているので、なぜこのような現象が起きているのか疑問を感じますね。

ーー李:実際に投資されている佐俣さんとCVCの中でスタートアップと大手企業の協業を支援されている藤本さんは、女性起業家が直面する資金調達の問題についてどう思われますか?

佐俣氏:

シンプルに投資する側に女性が少ないという問題があります。 基本的に人間の考えはバイアスがかかってしまうので、自分の属性に近い人を高く評価する傾向があります。従って、投資側に男性が多ければ起業家側の方も男性の割合が高くなることも女性起業家による資金調達のケースが少ない理由の一つに挙げられるのではないかと思います。

藤本氏:

当社には「Wellbeing-as-a-Service(WaaS)」という人生100年時代を見据えたウェルビーイング構想があるのですが、その一環として、女性が直面するさまざまな健康や人生の課題の解決に取り組み、女性の人生を支えるサービスを作っていきたいと思っています。ところが、この課題の当事者であり、また実際にサービスをつくっている女性経営者と協業する側の事業推進担当に女性が少なく、僕みたいなおじさんが多いのは大きな課題です。しかも上から目線で 「投資してやるよ!」みたいに接する人も多いですよね。

しかし、本来は起業家、経営者、大手企業の人間は完全に対等の立場であるし、性別も全く関係ないと思います。我々事業会社側も男女に公平な組織づくりをしなければいけないですし、かつ上から目線で起業・経営者側の方達と接する人を根絶しなければならないと思います。

(FoundHER Sessionの様子)

女性投資家と女性起業家が少ないという現状に起業家、投資家、そして大手企業はどのように取り組んでいくべきか

ーー李:女性の中にも起業家になりたくない人や、資金調達に苦労されている人もいる中で、なぜ女性起業家の比率をあげなければいけないのか?佐俣さんはどのように思われますか?

佐俣氏:

女性起業家比率が5%という現状を鑑みると、この状態のまま次の世代にバトンを渡したくないと率直に思っています。

金融業界の人間としてお話しすると、金融は社会に対して付加価値を与えなければなりません。世の中への付加価値となる活動を自分たちが作り出し、これがうまくいくと世の中が良くなる、という事業のあり方が金融であると僕は思っています。現状のまま、自分のファンドがものすごく成果をあげたとしても、結果として男性起業家だらけの世の中が出来上がってしまうと思うと、それはやりたくないですし、あまりにも不自然だと感じます。 

数多くのダイバーシティ問題がある中で一番に取りかからなければならないのが、男女比問題です。50対50であるはずのものが95対5になっている現状は、普通に比率から考えてみるとおかしいので、まずここから是正に取り組んでいきたいと思っています。女性だけにフォーカスするというよりは、多種多様な人がさまざまな挑戦をするときにそれが自然にできる環境にしたいだけです。

(FoundHER Sessionに登壇中の佐俣アンリ氏)

ーー李:日本では大手企業で活躍する幹部、そして経営者にも女性が非常に少ないのが現状です。大手企業の中でリーダーを務めておられる藤本さんから、女性の活躍を大手企業の中で推進するためには何をすれば良いのか教えていただけますか?

藤本氏:

自分の会社も女性幹部の登用がものすごく増えているかと言うとまだまだです。でも、そもそも性別というレンズを通して個々人の能力や経営者としての手腕を判断していくのはおかしなことですよね。男性経営者と言わないのに、女性経営者と呼ぶのはおかしいというふうに、企業側の意識自体を変えていかなければ何も変わらないと思います。

先ほど佐俣氏からダイバーシティのお話がありましたが、我々もダイバーシティ・エクイティ・アンド・インクルージョンという公平性を重んじたフレーズで社内の意識改革を進めています。

ーー李:起業することは非常にチャレンジングですし、 女性としてだけではなく1人の人間として自由に挑戦していくことは非常に大事だと思います。そこに関して我々ひとりひとりとして何かできることはありますか?

伊豫氏:

いくつもの異なる大中小のカテゴリーがある中で、性別というカテゴリーが一番広いと思います。私の通っていた中学・高校の先生が「男女は同型であるけど同質ではない」という印象に残る言葉をおっしゃっていて、非常に共感しました。やはり同質じゃない人に対して環境であったり、その人独特の感覚に対して思考を合わせることは、なかなか難しいと思います。その観点から考えると同じカテゴリーにいない人たちと、想像力をどこまで一緒に働かせられるかというポイントをきっちり押さえることが、ダイバーシティ・エクイティ・アンド・インクルージョンにも繋がると思います。

その意味合いの中で、女性の起業家が少ない、同質な方が少ないという現状を踏まえると、問題に直面した時に本当の意味で共感してもらえたり、相談できる相手がいない状態を1つの課題として改善していくべきだと感じています。

(FoundHER Sessionに登壇中の伊豫愉芸子氏

ーー李:世の中で女性支援がトレンドになると、女性ばかり注目されるという風潮が出て来るかもしれません。そうすると、逆に特別視されない方がやりやすいと思う時はありますか?

伊豫氏:

たくさんありますね(笑)。「いや、支援とか大丈夫なんで、自力で頑張ってるんで、大丈夫です」と思う時はあります。

佐俣氏:

その場合もあります。ただやはり僕ら組織の人間が「女性を応援しましょう、頑張ろう!」とだけ言っていても、変わることはそう多くはないです。マジョリティとマイノリティとの感覚の差を、マジョリティ側がチューニングしようとする時「頑張ろう、オー!」という気持ちだけだと何もできないので。やはり、自分たちの組織を変えるためには明確な目標達成のための数字を見つけて、それを追っていかなければ何も変えられないという結論にたどり着きました。

藤本氏:

数字を掲げることはすごく大事ですよね。私はイノベーションは多様性の中から生まれてくるのだと思います。同質の人たちだけで新しいことをしようとしても絶対イノベーションは起こらないです。従って、 我々のような古い企業にいるおじさんこそ積極的に新しい会社の経営者に会いに行ったり、環境が全く異なる女性の方が多く出席する会合に行ったりしなければいけないと痛感しています。そのような場所に実際に赴くことで、自分が知らないことを初めて知り、イノベーションにつながる種を見つけ、新たなイノベーションを起こせるのだと思っています。

スタートアップと大手企業の連携における課題と展望

ーー李:スタートアップとともに実効性のあるデジタル活用事業ができる大手企業と、そうでない大手企業の決定的な違いを1つ上げていただけますか?

藤本氏:

先ほどの話と同じなのですが、本当に事業協創ができる企業かどうかを判断するには、デジタルの知見よりも性別、国籍、会社規模、会社歴の長さ、年齢などにとらわれず、全く同じ目線で一緒に議論できるかどうかが全てではないのかと思います。

ーー李:伊豫さんは大手企業の投資家と接する時に、シナジーを測るポイントなどはありますか?

伊豫氏:

そうですね。前回のラウンドでユニ・チャームさんに出資いただいていまして、その他の大手企業さんからも出資を含めていろんなお話をいただくことが多いです。基本的にはどちらが上でどちらが下だとかの関係ではなく、互いに尊敬し合い、双方の足りていない部分を補完しあえる関係かどうかという点を重視して判断しています。

ーー李:佐俣さんは、完全にファイナンシャルリターンのVCだと思うのですが、佐俣さんの目線から見て大手企業がスタートアップと協業する時に気を付けた方が良い点などはありますか?

佐俣氏:

「事業を経営企画部門のおもちゃにさせない」という点ですかね。経営企画部門出身の方がスタートアップについては詳しいのですが、経営企画に携わった経験が長い方が協業時に携わると、事業接続のプロセスがより難しくなる場合があると感じます。 やはり、なるべく事業部門出身の方、もしくは事業部門で現役の方々を巻き込むことが非常に大事ではないかと思っています。経営企画部門が強くなりすぎる大手企業は、逆にファイナンシャルリターンのみを求めた方がいいのではないかと思うところは結構あります。

ーー李:組織が変わるためには、役職に関係なくおかしいと思うことを指摘できる企業文化を作ることが大事だと感じます。 ですが、大手企業、特に金融機関ではそのような文化を作ること自体にかなりハードルがある印象です。その中でひとりひとりができるアクションは何があるのでしょうか?

(FoundHER Sessionに登壇中の藤本宏樹氏氏

藤本氏:

僕は「ヒラメ筋系オープンイノベーション」と言ってるんですが、「自分から見ず知らずのところに足を運んで、そこに身を置く」ことが第一歩ではないかと思います。そこで初めて自分達のおかしな点に気づけるし、自分が直に感じた問題意識や熱をどれだけ社内に伝えていけるのかが肝心な取り組みではないかと。

イノベーションは「よそ者、若者、バカ者」から生まれると思っているんですが、スタートアップには大手企業を飛び出した伊豫さんみたいな「よそ者」「若者」そして夢を追い続ける「バカ者」が活躍しています。でも、大手企業ではどうしても過去の成功体験を持つおじさんの力が強い。だからこそ社外の「よそ者」や「若者」の声を大事にしないといけないし、何よりも自分自身が「バカ者」と呼ばれる覚悟を決めて挑むことが重要です。その覚悟があれば、大抵のことはなんとかなります

伊豫氏:

この間、藤本さんともお話したのですけど、スタートアップで現在働く方たちの中には大手企業での勤務経験を持つ方が比較的多いので、大手企業側の論理を理解しているスタートアップが増えてきています。従って、大手企業の方からも話がしやすいスタートアップは多いのではないかと思います。

佐俣氏:

僕ももともと大手企業にいたのでその論理は分かります。でも大手企業を経験していない若い社員から見て、やはりおかしいと思うことは多いのですよね。 企業には企業の中のルールという絶対的な掟があって、そこで働いている人は段々とそのルールに染まっていきますが、転職者や若い人たちは「それっておかしくないですか?」と疑問に思うルールがほとんどです。そして、企業のおかしいルールをおかしいと言えなくなる空気が課題であるのだろうなと感じます。

逆にそういった企業のおかしな取り決めに敏感になれるのは、会社にフレッシュな人たちか、社外取締役しかいません。「それちょっとおかしいんじゃないですか?」と空気を読まずに誰でも言える環境を整備することが、まず大事なのではないかと思います。

終わりに

ーー李:FoundHERはもともと女性にフォーカスした活動ではありますが、女性だけではなく、男性、若い方、年長の方でも起業したり自由に活躍できたりする社会を作ることが最終的な目標だと思います。 そのような社会を作るために、大手企業、スタートアップ、投資家としての立場から、最後に何かメッセージを送っていただけますか。

藤本氏:

 Plug and Playの趣旨そのものだと思いますが、皆でスタートアップ業界をどんどん盛り上げて、どんどん新しい事業を作っていきましょう!

伊豫氏:

まだまだスタートアップとしての組織も小さいですし、少人数でやらなければいけないところが多いです。しかも、スピード感をもっていかなければなりませんので、 サポートいただきたい部分がたくさんあります。従いましては、ぜひ大手企業の皆さん、そしてスタートアップの皆さんとお互い協力し合える関係を築いていきたいです。

佐俣氏:

日本は、アメリカのようにスタートアップだけが天下を取る国ではないと僕は思っています。僕は投資家としてスタートアップと大手企業がどのような関係性の中で協力していくかを見ています。日本には長い歴史を持つ素晴らしい企業がたくさんあるので、その中でお互いをリスペクトすることが何よりも大事ではないかと。自社が勝つ勝たないとかももちろん重要ですが、「こういう世の中はいいよね」や、「ダイバーシティが当たり前の世の中がかっこいいよね」等の価値観を皆ですり合わせて、挑戦できる雰囲気を作りだせれば、よりスタートアップ、大手企業、投資家が仲良くできるのではないかと感じます。

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