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トポロジカル物質の社会実装を通じて世界の産業における「熱」課題解決を目指す ー Topologic

2024/05/07

「新たな地平を拓く材料を社会に届ける」をミッションに、「トポロジカル物質」と呼ばれる特異的な物性を示す量子科学に基づく新規材料の社会実装を目的として設立された東大発スタートアップのTopoLogic。Plug and Play Japanは同社のビジョンに共感すると共に、TopoLogicが有するコア技術による新素材、およびそれらを活用したデバイスの開発技術の優位性に大きな可能性を感じ、本年2月に出資をいたしました。
今回、TopoLogic代表である佐藤氏に、トポロジカル物質が持つ可能性や、事業立ち上げの背景や将来の展望などについて伺いました。


Writer: Megumi Shoei


プロフィール


Interviewee: TopoLogic 代表取締役 佐藤太紀氏(写真左)

東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了。 6年間マッキンゼー・アンド・カンパニーにて製造業企業のクライアントを中心にマネジメントコンサルティングに従事。その後、産業用ドローンのスタートアップ企業にて大企業向けの共同開発や共同事業の構築を実行。2021年11月、TopoLogic株式会社代表取締役CEOに就任。経営コンサルティング及びスタートアップでの事業開発の経験を活かし、TopoLogic株式会社の事業の垂直立ち上げを目指す。


Interviewer: Plug and Play Japan Ventures Associate 相馬由健(写真右)

東北大学大学院工学研究科にて修士号を取得後、野村総合研究所の経営コンサルタントとしてキャリアをスタート。同社において官民のクライアントに対して戦略策定から実行支援まで幅広い支援を経験後、2021年にPlug and Play Japanに入社。ディープテック、宇宙、農・食といったキーワードを軸にしたスタートアップ投資や、大手企業向けのイノベーション支援を行っている。趣味は映画鑑賞、読書。


 

ーー事業概要について教えてください。

トポロジカル物質の一種である「ワイル半金属」「トポロジカル反強磁性体」を応用し、既存技術では成し得なかった高度なエネルギーの可視化、省エネルギー化を可能とする電子デバイス・半導体デバイスを開発しています。

現時点では、熱流束センサ「TL-SENSING™」とトポロジカル物質を用いたコンピューティングメモリ「TL-RAM™」の開発を行っています。TL-SENSING™は、トポロジカル物質特有の異常ネルンスト効果を用いて安価かつ高い形状自由度を実現できるセンサで、微細な熱の変化を高速検知することが可能です*1。

TL-RAM™においては、2025年末を目処にプロトタイプチップの設計・開発・実証を目指しています。本製品はMRAMを代表とするスピントロニクスデバイスへトポロジカル物質を適用することで、従来の製品と比較して10分の1以下の消費電力に抑えられる他、2桁速い超高速書き込みや低消費電力化による高集積化が可能です。*2

現在は、自動車業や半導体製造関連の業界など、熱の管理や可視化に苦労されている業界を中心に我々のセンサを使っていただいています。メモリは基礎開発の段階なので、将来的にはさまざまな半導体メーカーにご利用いただきたいと考えています。

ーーなぜ企業は熱の管理や可視化に苦労されているのでしょうか。またTopoLogicの技術でどのように企業のペインポイントを解決できるのでしょうか。

TL-RAM™、TL-SENSING™プロトタイプ(画像提供:TopoLogic)


近年はカーボンニュートラルの影響や顧客のニーズの多様性、それに伴う製品の複雑化などが伴い、エネルギー消費を抑えつつも高精度な商品が求められるようになりました。

例えば、最近のパソコンはほとんどがファンレスになっています。時代とともにPCの高性能化が進み、かつサイズも小さくなるにつれ、さまざまな部品を削る必要が出てきてファンもなくなってしまった。となると、出てくる一番の課題は「どのように熱を管理するのか」です。

スマートフォンに関しても、防水性を高めるためにパッキンを使用しているため気密性が高く、中の熱が上がってしまう。かつ軽量化で熱伝導効率の悪いプラスチックを使うため、さらに放熱できなくなってしまう。自動車もしかりで、電気自動車が出てきてバッテリーの冷却に課題を抱えるようになったわけです。つまりデザイン性などの観点から製品がコンパクトになるにつれ、皺寄せがくるのが熱設計の部分です。

これまでの温度センサでは上記のような課題に対応できなくなってきました。そこで新しい熱設計が必要に迫られてきている中で、我々が開発したTL-SENSINGでは、吐息レベルの微細な熱の動きも0.01秒未満で検知できるため、バッテリー・パワー半導体の故障予知や熱快適性コントロール、化学センサ・ガスセンサなど、幅広い用途への活用が期待されています。*3

 

ーー起業のきっかけについて教えてください。

TopoLogicは、東京大学理学系研究科の中辻 知教授の材料技術の研究成果を社会実装すべく立ち上げました。
私自身は東京大学航空宇宙工学専攻で、流体やターボ、ジェットエンジンなどを研究しており、中辻教授とは全く異なる分野を研究していました。

修士を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)にて製造業のクライアントを中心にマネジメントコンサルティングに6年ほど従事し、その後スタートアップで事業部統括を2年ほど経験しました。

中辻先生との出会いは、先生がTopoLogicを創業される際にサポートしていたメンバーの1人に、私がマッキンゼー時代に慕っていた大先輩がいらっしゃったのがきっかけです。その方に、やはり会社立ち上げにはビジネスマインドを持ってマネジメントできるメンバーが必要だということで、お声がけいただきました。中辻先生とお話しする中で、ポテンシャルの高い面白いビジネスモデルが作れそうだと思い、代表を引き継ぎました。

大学発スタートアップというと、大学研究の延長線上のようなイメージを持たれるかもしれませんが、我々は大学での研究実績をベースにデバイス開発を担っている補完的な関係となっています。

あくまで基礎物理分野は取締役技術顧問である中辻先生が主導です。私は先生が研究している技術をビジネスとして社会に実装・実現していくことが仕事であり、そのために必要な専門性が高い組織を組成しています。そしてチーム内には、開発や特許についての専門的な知見を持つメンバーが在籍し、国内屈指の設計・開発経験を持つエンジニアや弁理士であるCOO澤井を中心に、技術とビジネスの両翼を強固にしています。

ーー起業の背景には、どのような思いがあったのでしょうか。

 

大学時代までは、技術が好きで技術や研究に集中した生活を送っていましたが、その技術が世の中で実装されていく過程で直面するボトルネックは必ずしも技術そのものではなく、事業化・収益化できない部分にあるケースを多くみてきました。

特に日本発の独自技術を持ったDeeptech系のスタートアップは、苦労している企業が多い印象があります。やはり技術とビジネスマネジメントの組み合わせがうまい企業は成功しています。そのため、我々としても、 そういうエコシステムを作っていきたいという思いが非常に強くあります。
そのため弊社も先生が本来時間を割くべき研究に没頭していただく一方で、私は事業・収益化することで、その技術を社会実装していくことに意義を感じました。

 

ーーDeeptech領域では、技術者とビジネスマインドを持った有望人材とのマッチング機会が依然として限られているように思います。この現状を打破する方法はあるのでしょうか。

私自身も解を見つけられていないのが正直なところではありますが、日本で課題だと感じるのは依然としてアカデミアとインダストリーの垣根に開きがあることです。

米国などはDeeptech系のスタートアップでも、CEOはシリアルアントレプレナーが担っている一方で、あくまでオーナーは技術側であるケースが比較的多いように思います。競合に関わらず特定分野に特化したマネジメントスキルが必要であれば、外から補うというカルチャーが出来上がっているわけです。

他方、日本ではオーナー権限を持っているのはCEOであり、かつCEOが技術の知見も持ち合わせていることが前提とされているパターンがほとんどです。今だに経営が専門職という認識が薄く、プロの経営者に対する考え方が文化的に育ちきっていないように思います。そのため、まずこの認識を変えることが大切なのではないかと考えています。

そのうえで、最近ではベンチャーキャピタル(以下、VC)や企業で技術・研究者と経営側とのマッチングイベントを行っているところが増えてきていると思います。また将来的には、技術ピッチイベントなどでマネジメントを通じて技術をサポートしたいと思っている潜在経営者と技術者がマッチングするようなプラットフォームが増えていけば良いなと思います。

また、大手企業で働いていた経験がある方は技術ニーズがどこにあるのか分かっていて目利き力もあるので、そういう方のスタートアップへの転職がより一層増え、経営に関わってくるようなエコシステムが出来あがってくると面白いなと思います。

スタートアップが育っていくためには、資金だけでなく人材やスキルも流動していく構造にしなければなりません。

ーー現在、グローバルでDeeptech領域への注目が高まっており国からの補助金も増えていますが、現在の潮流をどのように感じていますか。

日本でもアーリーステージでの大型調達も出てきており、注目も高まっている中で、少しずつDeeptechを取り巻く環境は良くなってきていると思います。Deeptechは専門的知識が必要になるため難しさはありますが、近年では投資家の理解度も徐々に上がってきているように思います。日本はこれからですが、特に米国などは少し長い運用期間のファンドだったり、調達のチケットサイズが大きくなってきたりしているなどのトレンドがあります。

上述した通り、これまでは技術研究・開発から事業展開までを全て1人でやらなければならないというマインドセットが強かったように思いますが、最近ではMBA出身者や商社出身者など、ビジネスマインドと知識を持った方々がDeeptechスタートアップをリードし、成功している事例が少しずつ増えてきているように思います。適材適所で人をいかに配置して、必要なスキルを補った組織が作れるかが勝負なわけです。VCでも、Plug and Playさんのように技術とビジネスバックグラウンドを持った人をマッチングさせるような支援を提供している先もあるので、今後はそのようなトレンドは強まるのではないでしょうか。

ーー今後のマイルストーンについて教えてください。

半導体メモリ事業に関しては、一番大きな目下の目標として2025年にプロトタイプとなるメモリチップを完成させ、半導体メーカーさんに評価いただけるように出荷していきたいと考えています。熱センサにおいては、すでに複数社とPoCを進めている段階なので、まずは各プロジェクト管理をしっかり行い、お客様のニーズを満たしながら、上市に向けて着実に進めていきたいと考えています。こちらも2025〜2026年あたりには、我々の技術を搭載した製品がお客様から生まれることを願っており、それに向けて日々一緒に技術の改良を続けているところです。

ーー海外マーケットへの展開の予定はあるのでしょうか。

Plug and Play Japan主催 プログラムデモデイピッチにて

 

海外展開は積極的にしていきたいと考えています。自動車を例に挙げれば、基本的に日本車であろうがドイツ車であろうが、エンジンが出す熱の配列はどこでも同じ課題を抱えています。我々の持っている技術は、国や言語を選ばず普遍的にそのような課題を解決できるため、海外展開するうえで幅広いビジネス機会があると考えています。

実際に我々のお客様にはグローバルサプライチェーンを築いている業界が多いので、すでに海外展開に向けた積極的なアプローチを進めています。また今回の資金調達を機に米国含め、国外のVCからもいくつかお声がけもいただいていますし、Plug and Playさんを介して欧州でのネットワークも開拓しているところです。

ただ半導体の製造を行っている国は基本的に欧米・中国・タイ・韓国であり、加えて熱生産は製造設備や自動車などのハイテク産業に入るケースが多いので、それも踏まえると製造拠点が集まっている東アジアの中国・タイ・韓国の3カ国をメインに展開していければと考えています。

ーーPlug and Playを介して欧州のネットワークを開拓されているとのことですが、参加いただいたアクセラレータープログラムはどのように役に立ちましたか?

Plug and Play Japan主催 プログラムデモデイ 質疑応答の様子

 

我々は2022年12月〜2023年3月期のアクセラレータープログラムに参加しましたが、やはりPlug and Playさんのグローバルレベルでの幅広いネットワークは非常に魅力的だと感じました。

「欧州のこういう会社に繋がりたい」「米国のこういう会社に繋がりたい」というリクエストにしっかり答えていただきました。正直、日本のVCでここまで対応してくれる先は、ほとんどないと思います。


今後Plug and Playさんが提供しているアクセラレータープログラム等に参加するスタートアップの方は、自分たちが何を求めているのか、どういう情報やネットワークがほしいのかなど、自分たちのニーズを明確化したうえでコミュニケーションを取っていくと良いと思います。「こんなことまでお願いしたら失礼なんじゃないか」と遠慮される方もいますが、そこはお互いにメリットのあることでもあるので、しっかり意思表示をしてPlug and Playさんのプラットフォームを上手く活用することをお勧めします。

ーー最後に、Plug and Play Japanからの投資を受け入れた決め手を教えてください。

Plug and Playさんのアクセラレータープログラムへの参加がきっかけで、今回のご縁をいただいたわけですが、創業初期から海外VCに入ってほしいとは思っていました。その中で、Plug and Playさんはグローバルでもハードウェア系のスタートアップへの投資や、スタートアップ支援の事例も多いのが特徴的だと思い、我々との親和性も感じていました。

また弊社の事業やトポロジカル物質の可能性に共感いただくとともに、チームの技術と熱意に信頼と期待の念をお寄せいただいたため、今回ご一緒させていただくことにしました。弊社としても、このネットワークを活かして海外進出への足掛かりとすべく、より一層の努力を重ねていきたいと思います。そして世界でいち早くトポロジカル物質を社会実装し、世の中のコンピューティングや熱に関する課題の解決を行っていき、グローバル社会をリードする企業を目指して邁進していきます。

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