Meet the Startups: 素材・化学領域で注目のスタートアップ9社
2023/09/04
Plug and Play Japanでは、2023年6月〜2023年9月期のアクセラレータープログラムSummer/Fall 2023 Batchが進行中です。今回は、New Material (ニューマテリアル)分野*1 で採択された、素材・化学系スタートアップ9社を紹介します。今後の素材・化学領域のイノベーションをけん引するであろうスタートアップ各社のユニークな取り組みについてご説明します。
1* Plug and Play Japanのアクセラレータープログラムでは、企業パートナーの注力分野や技術ニーズに基づいて、「バーティカル」と呼ばれる業界テーマごとにスタートアップを採択している。2023年7月現在ではFintech(金融サービス), Insurtech(保険), Mobility(自動車・運輸・物流), Health(医療・製薬), Smart Cities(建設・不動産), New Materials(素材・化学), Energy(エネルギー), Food & Beverage(食品・飲料)の8バーティカルを運営。
Writer: Haruhito Suzuki
Marketing & Communications Intern
New Materialとは?
Plug and Play JapanのNew Materialsプログラムは、脱炭素・サステナビリティといった社会課題を解決する、素材・化学領域の最先端ディープテック技術の社会実装を支援しています。自然科学分野での研究実績を事業化することにより、現代社会が直面する経済・社会・環境問題等の解決を図るディープテックですが、革新技術の社会実装にかかる期間が長期に渡る、多額の資金を必要とする、そして既存のビジネスモデルに技術を適応することが容易ではないという課題を抱えています。これらの課題を乗り越えるためには、スタートアップと大手企業の連携・協業が鍵となります。Plug and Playは素材・化学領域で活躍する国内外スタートアップと大手企業を結びつけ、新たなイノベーションを生み出しています。
採択スタートアップ紹介
1. AirGo Design:AIにより実現する持続可能な金属代替材料の開発
会社概要
企業名:AirGo Design Pte. Ltd
所在地:シンガポール
代表者名:Maziar Jahanshahi氏
Website:https://www.airgodesign.com/
Keyword:#繊維熱可塑性コンポジット #機能性部品 #金属代替
AirGo Designは金属代替材料となる、リサイクル、アップサイクル、バイオ由来の熱可塑性樹脂(強化プラスチック)・再生繊維など、サステナビリティに優れた素材を活用した機能性部品を開発・提供しているスタートアップです。同社は、製造の前段階において、AIドリブンな技術と非線形構造解析技術(製品の歪み率などの解析技術)を通じて、製造される各部品の挙動を正確にシュミレートしています。特に、計算流体力学を用いて、金型内で繊維がどのように流れ、射出中に溶接面がどこに形成されるかをシミュレーションすることで、従来技術と比較して1000倍のスピードで正確に設計デザイン・シュミレーションを実現するソフトウェアを開発しています。また、第三者パートナーと連携しており、製造技術においても優れています。
さらに、同社のシュミレーションは追加の計算コストなしに機能性部品の剛性・損傷の予測を正確に行い、応力の振幅と大きさ、サイクル数と時間、温度と吸湿などの変数を考慮した疲労・クリープ分析を少ないデータ量で実践することができます。このように、同社のシュミレーションソリューション技術によって、トライアンドエラーを繰り返していたR&Dのコストを削減できます。これにより、同社の技術は金属代替材料の開発・製造を目標とする大手企業とのプロジェクト、素材サプライヤー、射出成形技術サプライヤー、ソフトウェアのディストリビューターなど様々な協業形態が期待されます。
2. Blueshift Materials :高性能な製品設計のための熱保護システムを開発
会社概要
企業名:Blueshift Materials Inc.
所在地:アメリカ マサチューセッツ州
代表者名:Tim Burbey氏
Website:https://www.blueshiftmaterials.com/
Keyword:#ポリイミドエアロゲル #断熱材 #低誘電損失
Blueshift Materialは、NASAが開発・保有していたポリイミドエアロゲルと呼ばれる断熱性、低密度、低誘電性に優れた多孔質材のフィルムを活用した熱制御技術の商業化に取り組むスタートアップです。従来のシリカエアロゲル技術は、主に耐熱性素材の活用が必要となる航空宇宙産業において応用が期待されている一方、傷・破損などによって粉塵が発生したり、加工が非常に難しいなどの課題が存在していました。しかし、同社が設計・開発するコア技術、「AeroZero®」ポリイミドエアロゲルフィルムは、熱拡散性、熱伝導性、RF透過性という強みを持つと同時に、シリカエアロゲルと比較して加工が容易かつ粉塵なども発生しないため、高い機能性と従来のエアロゲルが抱えていた課題の解決を両立する製品となっています。
さらに、同社のポリイミドエアロゲルフィルムは、軽量かつ薄型のテープ状またはパウダー状であるため、量産や多様なテクノロジーへの応用が可能です。具体的には、熱保護システム、熱障壁、ラミネーション、ロックテープ形式として提供され、打ち上げロケットや極超音速ミサイルなどの長射程精密誘導弾、高出力水槽など、耐熱性・低誘電機能が求められるソリューションに活用することが期待されます。
3. カーボンフライ:均一な規格で高純度な様々な形状のカーボンナノチューブを製造する技術を開発
会社概要
企業名:株式会社カーボンフライ
所在地:東京都 江東区
代表者名:テン フィ氏
Website:https://carbonfly.co.jp/
Keyword:#カーボンナノチューブ #宇宙
カーボンフライはカーボンナノチューブ(CNT)と呼ばれる伝導性、耐熱性、耐久性そして機械特性に優れたナノカーボン材料を開発しているスタートアップです。従来、CNTは純度の低さ、分散性、そして素材加工の困難さから、製造過程が複雑で、高コスト化する傾向にありました。しかし、同社の技術は、分散性、量産性、高純度、加工性、4つの側面において優れており、量産・コスト面で優位性の高い多層CNTの製造を実現します。
具体的には、独自の技術を通じて、CNTが凝集することなく分散させることができ、CNT本来の特性を活かした製品製造が可能となります。さらに、同社の技術はCNTの長さと径を均一にコントロールすることが出来るため、CNT100%で繊維・フィルムを製造することが出来ます。また、実験段階では二酸化炭素を原料としてCNTを製造することに成功しており、今後は変換効率を高める研究を進め実用化を目指していきます。
品質、機能性、量産性に優れ、パウダー・フィルム・繊維と多様な形態での製品提供が可能となる同社の革新的なCNT技術は、応用が難しかったモビリティ、ヘルスケア、航空宇宙といった産業に活用されることが期待されています。
4. Epoch BioDesign :独自の酵素デザインアルゴリズムを用いてポリエチレン・ナイロンの酵素リサイクル技術を開発
企業名:Epoch BioDesign Ltd.
所在地:イギリス ロンドン
代表者名:Jacob Nathan氏
Website:https://www.epochbiodesign.com/
Keyword:#酵素リサイクル #合成生物学 #サーキュラーエコノミー
Epoch BioDesignは従来難しいとされていたポリエチレン酵素のリサイクルを、独自の酵素デザインアルゴリズム技術を通じて実現することを目指しているスタートアップです。計算物理学、遺伝子デザインアルゴリズム、バイオロジカルデータなどを活用した同社の酵素デザインアルゴリズム技術は、ペットボトルの本体に用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)よりもリサイクルが困難なポリエチレン(PE)など様々な樹脂リサイクルを可能にします。同社は、現在はPEとナイロンのリサイクルにフォーカスしており、酵素の力を用いてモノマーやオリゴマーまで戻すことでエネルギー消費量削減し、有毒な物質を排出することなく、ケミカルリサイクルを実現しています。潤滑剤や接着剤、ペイントなどに活用できる化学物質を生成することもできます。
また、様々な樹脂を分解できる酵素開発技術だけでなく、独自の分離技術も保有しており、複数の樹脂が混在している場合でも酵素リサイクルに最適な状態に分離することで高効率でリサイクルが可能です。リサイクルに適した酵素の探索・培養から化学物質の生成まで自社内で完結させることができる同社は、プラスチックのリサイクルに新たな活路を見出すことが期待されています。
5. ESTAT Actuation:電気吸着技術を活用した軽量で低コストなアクチュエーターを開発
会社概要
企業名:ESTAT Actuation, Inc.
所在地:アメリカ ペンシルベニア州
代表者名:Stuart Diller氏
Website:https://www.estat.tech/
Keyword:#ソフトアクチュエーター #大学発
“エネルギー”を、直進移動や回転・曲げなど、何らかの“動作”に変換する装置であるアクチュエーターは医療、モビリティ、航空宇宙産業、さらにはロボット開発において極めて重要な役割を担っています。カーネギーメロン大学での研究を基に設立されたESTAT Actuationが開発するソフトアクチュエーター*2は、静電気の原理を活用した電気吸着技術を用いて従来のアクチュエーターより10倍ほど軽量かつコンパクト化した製品となります。また、同技術は軽量化の一環として電力を消費する多くのコンポネートを削減していることから、エネルギー使用量も従来製品の600分の1に抑えることができます。重量・サイズという面での利点に加え、シンプルで薄型の形状がテキスタイルを始め、様々な素材に組み込むことを可能とし、多種多様な産業・工業製品に活用されることが期待されます。具体的には、クラッチ・ブレーキなど大量の熱エネルギーを使う車用部品の代替や、重量物の運搬から細かなソフトタッチの再現が求められるロボット、ウェアラブルデバイスなどへの活用が想定されています。
2* 材料そのものが変形する性質を利用した動力源かつ駆動源
6. INCAPTEK :独自のポリイミド製造開発とポリイミドを活用したコンポジット材など多様なアプリケーションを開発
会社概要
企業名:INCAPTEK Sàrl
所在地:スイス ジュネーブ
代表者名:Olga Fontanellaz氏
Website:https://incaptek.com/
Keyword:#フィルム #低誘電 #マイクロカプセル
INCAPTEKはロンドン大学クイーン・メアリー校の教授であり、同社のCSOでもあるGleb Sukhorukov氏により研究されているポリイミドの素材開発・製造技術の社会実装を目指すスタートアップです。同社は従来トレードオフであった熱可塑性の加工容易性と熱硬化性の耐久性・耐薬品性の両方を実現した独自のポリイミド素材の開発を行っています。さらに、不織布やフォームなどのポリイミドを活用した製品開発も行っており、物性が優れているだけでなく、高温処理や有害な溶媒を必要としないサステナブルな製法が可能である点です。断熱材やバッテリーセパレーター、ガスフィルター、低誘電フィルムなどへの応用が期待されています。
もう一つの強みとして挙げられるのが、ポリイミドのマイクロカプセル・マイクロエアコンテナ技術としての活用です。フィルム上の微細コンテナに医療薬剤を入れることで必要な時に薬剤を放出するドラッグデリバリーとしての活用、空気を充填することで超低誘電の機能をポリイミドに付与し、5G/6Gなどけのアプリケーションとして利用することが可能となります。マイクロコンテナの大きさや包含物をコントロールすることで、超高誘電や自己修復の機能を付与することも可能で、建設やモビリティ、航空宇宙分野での活用が期待されています。
7. Smart Material Solutions:樹脂の表面上にナノまたはマイクロサイズのパターン加工を施すことによって、疎水性や防塵性など多様な機能を付与できる技術を開発
会社概要
企業名:Smart Material Solutions, Inc.
所在地:アメリカ ノースカロライナ州
代表者名:Stephen Furst氏
Website:https://www.smartmaterialsolutions.com/
Keyword:#ナノパターニング #メタマテリアル
我々の日々の生活に欠かせない液晶画面、精密機器、あるいは太陽光パネルといったテクノロジーは機械の特性上、高い防水性や防塵性が求められます。また、液晶画面やVRゴーグルなど電圧・偏光フィルターの組み合わせなどが必要になる機器は、可視光線・赤外線などの波長の変化によって投影される映像の質が変化します。
Smart Material Solutionsは樹脂の表面を加工し、比較的短い波長(可視光線、赤外線、紫外線)をコントロールしたり疎水性や防塵性などの機能を付与する技術を開発しています。ノースカロライナ州立大学から本加工技術プロセスの独占特許を取得した同社は独自のナノ加工技術で、フィルム状の熱可塑性プラスチックなどの加工可能な樹脂の表面に模様を付けて、電磁波制御や防水、防塵、光の屈折制御などの機能を付与することを実現します。具体的には、同技術のアプリケーションを通じてVRグラスの画面・LEDの光加減などの調整、太陽光パネルの集光率向上などに寄与することが期待されます。
同社のコア技術は、樹脂表面の高速ナノパターニングを実現するナノインプリントリソグラフィー用金型*3 の製造技術になります。独自のナノインプリントリソグラフィー用金型を通じて多機能樹脂フィルムのRoll to Roll*4 での製造が可能であるため大規模かつ低コストでの樹脂表面加工を行うことが可能という強みを持っています。
3* 半導体などの基板表面に微細なパターンを形成するリソグラフィ技術
4* 複数のドラム・ロールを使用して、製品を製造・搬送する方法
8. Super Polymer:シンプルで既存プロセスへの組み込み可能な物理的な加工処理を行うことで、ポリマーを100%結晶化する技術を開発
会社概要
企業名:Super Polymer
所在地:イスラエル ベエルシェバ
代表者名:Hagai Ortner氏
Website:https://www.super-polymer.com/
Keyword:#ポリマー結晶化 #加工技術
建物には高い強度の建材を用いることが極めて重要ですが、熱の遮断、光の反射、防水性などの快適性も不可欠です。また、温度調整に優れた建物は、建物内における冷房・暖房の使用率を下げ、排出される二酸化炭素や光熱費の削減など、脱炭素化への貢献やコスト低減といった面でも期待できます。
Super Polymerの技術は、耐熱性、防水・防泥性、軽量性などの新たな機能をポリマー素材に与え、ポリマーが用いられる建造物の建材・塗料の機能性の向上に寄与します。同社が持つポリマー加工技術は、準結晶性ポリマーを温度傾斜にて化学合成ではない形で100%結晶化することを可能とします。この技術により、従来複数の物質の合成が必要であり、製造プロセスが複雑であった多機能ポリマーを、同社のパウダーを数%だけ既存の樹脂に混ぜることで低コストでで実現にします。また、既存の結晶化ポリマー製造技術などと比較し、製造過程における二酸化炭素排出量が極めて低いという利点もあります。
現在は、建設業界向けのアプリケーションに注力しており、断熱材やコーティングなどへの活用可能性を模索しています。
9. WEAV3D :熱可塑性プラスチックテープを独自技術で織り込むことで成形可能な複合格子を製造する技術を開発
会社概要
企業名:WEAV3D Inc.
所在地:アメリカ ジョージア州
代表者名:Lewis Motion氏
Website:https://weav3d.com/
Keyword:#コンポジット #プラスチック成形
安全性や堅牢性が非常に重要である建築・モビリティ業界にて求められる素材の多くが、耐久性に優れ軽量な繊維素材です。WEAV3Dは加熱時に軟化・溶融し、冷却した際に固化する性質を持つ熱可塑性のプラスチックテープを織り込むことで成形可能な複合格子を製造する独自技術、「WEAV3D」を開発しています。Georgia Institute of Technology (GIT)のスピンオフスタートアップである同社が持つ独自のテープ織り込み技術は、自動で連続的に熱可塑性プラスチックテープを織り込むことにより、軽量で丈夫かつ量産に優れた、シート状の複合格子を製造することが可能であるため、耐久性と重量、さらには製造コスト面でも優れているという利点があります。
さらに、同社の技術は、サイクルタイム、廃棄物、マテリアルハンドリングコストを大幅に削減することができるため、環境面においてもその応用が効果的であるとともに、既存の設備や成形プロセスを活用して最終製品の構造に加工することができ、設備投資の削減を図ることも可能です。織り込みする際の密度、用いるプラスチックテープの素材、シートのレイヤー数を調整することを通じて、自動車の内装・外装やコンクリートなどの建材など様々なアプリケーションに活用できる複合格子を製造することが可能になります。同社の製品はメカニカル・ケミカルリサイクルすることも可能です。
同社の技術は、耐久性と軽量化の両立が必要である自動車の内装などに用いられる構造用プラスチックや、コンクリート建造物の鉄骨などを代替する軽量、高強度、低コスト、かつ環境性に優れた複合格子としての応用が期待されます。
Summitのご案内
Summer/Fall 2023 Batchの採択スタートアップを含む、業界のイノベーターが多数参加する「Japan Summit Summer/Fall 2023」は、2023年9月14日〜15日にかけて虎ノ門ヒルズにて開催予定です。どなたでもご参加いただけるイベントとなっておりますので、ぜひご来場ください。