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VCとCVCが考える、次世代エネルギー技術への投資方針

2023/11/06

脱炭素時代へ向けた世界的なトレンドの中、次世代エネルギー技術への投資が加速しています。エネルギー分野におけるブレークスルーを導くには、設備投資等も伴った大規模かつ長期間にわたる投資が必要なため、ITなど従来の分野とは異なる投資戦略を立てなければいけません。

Plug and PlayのEnergyプログラムでは、株式会社環境エネルギー投資代表と、ENEOSホールディングス株式会社CVC部門の副部長をお招きし、最近の注目投資分野や次世代エネルギー技術への考えについて、ラウンドテーブルディスカッションを開催しました。

(本記事は2023年9月15日開催「Japan Summit – Summer/Fall2023」の中で実施されたパネルディスカッション『脱炭素時代に向けて次世代エネルギー関連技術への投資におけるVC及びCVCの考え方』の内容をもとに構成・編集しました)


河村 修一郎

株式会社環境エネルギー投資 代表取締役社長

日本興業銀行や興銀証券(現みずほ証券)等を経て2003年より独立、日本のエネルギー・環境関連企業に対する経営コンサルティング事業に取り組み、その活動を通じて、環境エネルギー分野へのリスクマネーの提供と経営支援を併進する事業の必要性を痛感。2006年に日本初の環境・エネルギー特化型ファンド運用会社、(株)環境エネルギー投資を設立、代表取締役社長に就任する。(写真左)


大間知 孝博

ENEOSホールディングス株式会社 未来事業推進部副部長

1997年に入社し、24年ほど潤滑油部門でセールス、マーケティング、プライシングなどを担当。 中でも新規ビジネス開拓を目的とした営業部に長く従事。2019年に新設されたENEOSホールディングス未来事業推進部が規模拡大するタイミングの2021年4月に未来事業推進部に異動。CVC運営およびスタートアップへの出資などを通じて、ENEOSが掲げる2040長期ビジョンの達成に向けて取り組む。2022年より現職。(写真右)


劉 倩

Plug and Play Japan Director, Energy / SmartCities

都大学法学Ph.Dを取得後、日系及び外資系コンサルティングを経て、7月にPlug and Play Japanに参画。 エネルギー産業に8年以上注力し、多くのエネルギー大手企業の中期計画、新規事業検討、事業性評価、新事業立ち上げ、再生等を支援。 エネルギー以外、製造業を含めた産業全体、スマートシティ分野にも幅広い知見を持つ。


脱炭素時代の投資の考え方

ーー最近注目している分野と、その背景をお聞かせいただけますか?

大間知氏:

これまで石油を中心としたビジネスを展開してきた弊社において、CO2の排出量は年間でスコープ1、2、3を合わせると約2.1億トンとなっており、脱炭素に向けたアクションは避けて通れない状況にあります。私たちは再生可能エネルギーに注目しており、風力や太陽光だけでなく、SAF(Sustainable Aviation Fuel)のような次世代エネルギー技術の可能性も探求しています。

これまでは自社での技術開発を基にビジネスを展開してきましたが、脱炭素技術や次世代エネルギー技術に関しては、オープンイノベーションを活用し他社との連携が必要になると考えています。そのために中央技術研究所が存在し、長期的な技術の研究や自社技術との組み合わせを検討しています。CVCとして私たちの役割は、独立した権限を持ち迅速に投資を行うことで、オープンイノベーションを活性化することです。投資対象として長期的な技術だけを重視するのではなく、短期的なビジネス展開とのバランスも考慮しなければなりませんし、アーリーステージとミドルステージのバランスも必要です。そのため、投資分散や適切な金額での投資が求められると考えています。

私たちは技術そのものよりも、資金の流れや市場動向をもとに判断し、ポートフォリオを分散しています。資金の流れにおいては、構造的な流れと循環型の流れが存在しています。循環型では数年おきに小バブルの発生を観測しており、例えば2年前の水素関連のバブルがそうでした。構造的な流れについては、ヨーロッパでテストされた技術にアメリカのVCが安価に投資し、アメリカで展開するという流れが強まっており、この現象は構造的な変化の兆しである可能性が考えられます。このような2つの流れを分析することで、その傾向をある程度把握できます。

投資シナリオをどう立てるか

ーー脱炭素技術の中でも時間軸が長い未来技術に対して、どのような方針で投資しているのでしょうか?

河村氏:

私たちは純粋なファイナンシャルサービスとして活動しており、企業の成長を通じて社会・環境へのポジティブインパクトを生み出す「インパクト投資」を行っています。この投資方法により、投資先の活動によるCO2排出削減量などを換算し、その社会・環境へのインパクトをレポーティング、成長とインパクト拡大の支援をしています。

短期的な炭素削減事業と長期的に大きなインパクトを持つ技術への投資の考え方は、私たちにとって非常に難易度が高いものとなっています。新規性がないが必ず炭素を削減する技術や、2050年を見据えた未来技術や事業に対する投資を考慮しますが、それらの技術や事業がもたらすCO2の増減や技術の成功確率など、多くの要素を現在価値として評価する必要があります。

さまざまなシナリオが存在する未来を予測するのは難しい中で、「ムーンショット」と呼ばれる技術に対しても資金を投じていく必要があります。私たちは技術の評価は初めからできないと考えており、多くの専門家の意見を取り入れ、市場動向をふまえて判断します。一方で、私たちが最も重視しているのは起業家のビジョンや情熱やチームの組成能力、そしてその起業家が大きく成長する企業を築けるかどうかです。

市場の動きに関しては、予測シナリオも私たち自身が仮説を立てています。これらのシナリオを「レベル1」「レベル2」「レベル3」というカテゴリーに分けて考えており、それぞれのリスクや可能性を評価しています。「レベル1」は、短期的に実現する可能性が高いと考えられるシナリオで、私たちの投資の約50%を占めています。一方、「レベル2」は中期的なリスクを伴うシナリオで、約30%を占めています。そして、「レベル3」は長期的な視点での予測が難しいシナリオで、約20%を占めています。この中には、非常に高いリスクを伴う「ムーンショット」的な技術も含まれています。

財務的リターン VS 戦略的リターン

ーー財務的リターンと戦略的リターンのバランスをどう考えておられますか?

大間知氏:

CVCでは、戦略的リターンと財務的リターンのバランスをどのように取るかが鍵となります。戦略的リターンのみを追求するCVCもありますが、キャピタルゲインを失い続けるため持続可能ではないと考えており、私たちは財務的リターンをしっかりと追求するようにしています。会社運営を継続していくために、企業の資本コストをカバーするという意識統一を行い、安定的な財務的リターンの獲得を目指します。

戦略的リターンの獲得方法としては、CVCの基本的な役割でもある、既存の事業部に新しい事業を追加することを重要視しています。事業部門にPoC(実証実験)をお任せするのではなく、事業部門と投資先の間に入り関係を構築することを意識しています。環境への取り組みも重要と考えており、森林や海に加え、他の方法でのカーボンクレジットの取得を検討しています。これも戦略的リターンの一環として位置づけています。

河村氏:

私たちは財務的リターンを主に見ていますが、「社会・環境へのインパクト」も重視しています。財務的リターンが前提の上で、その企業の事業をスケールすることで社会課題を解決し、世界へのインパクトを拡大していくような事業に焦点を当てています。財務的リターンと社会貢献の両立は難しいのですが、投資家からも問われており、強く取り組んでいく必要があります。

CVCとVCの強みと補完関係

ーーCVCとVCそれぞれで、現在課題を感じているのはどのような点でしょうか?

大間知氏:

新しい技術やパートナーを探す作業は非常に重要ですが、それに伴いキャピタリストの層の薄さが悩みの一つです。これまでにCVC経験のある投資家1名を採用しましたが、今後はこの分野の人材をより増やしていく必要があると感じています。

VCやキャピタリストは長期間にわたり業界の変遷を見守ってきたため、情報の蓄積や経験が豊富です。他方、CVCの課題は人員の頻繁な異動による知見の薄さです。この点で、VCの持つ強みとCVCの課題が補完関係にあると感じます。CVCとしても長期的な視点を持ち続け、事業を継続していくことが重要だと思います。

河村氏:

私たちが直面している最大の課題は、10年以内にイグジットしなければならないという制約です。その点で、私たちは事業会社のCVCを非常に羨ましく思います。核融合のような、成果が出るのに10年以上かかるプロジェクトにどのように取り組むかが、私たちの大きな課題であり、この問題を解決するためにイノベーティブなアプローチが必要になります。

物事を比較し、最も優れているものを選ぶことは難しいです。さまざまなスタートアップの優劣を比較する場合、どれが最も良いかは一概には言えません。しかし経験を積むことで、過去の選択と比較した上でスタートアップの優劣を判断することができます。私たちVCの長所は、長い間業界に関わるため、多くの人々との関係が築け、さまざまなビジネスや技術に対する意見を聞くことができる点です。長期的にスタートアップ投資に取り組み続けることは、事業会社、CVC、VCすべてにとって価値があると考えています。

Plug and Play Japanでは、今後も革新的なエネルギー業界のトレンドや最新技術、Case Studyなどを今後も発信していく予定です。ぜひお楽しみに!

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