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Meet the Startups: ヘルスケア領域で注目のスタートアップ9社

2023/07/24

Plug and Play Japanでは、2023年6月〜2023年9月期のアクセラレータープログラムSummer/Fall 2023 Batchが進行中です。今回は、Health分野*1で採択されたスタートアップ9社を紹介します。これらの9社は最先端の技術を活用し、さまざまな医療・健康課題に向き合っています。日本からは感情把握によるコミュニケーション支援を行う1社、メンタルケアを支援する1社、皮膚疾患の治癒を促す1社、医療従事者のトレーニングを支援する1社、海外からは手術ロボットを開発する2社、インプラントなどの再生医療に関する技術を提供する2社が採択されています。


Writer: Risa Taniguchi

Marketing Associate


Healthプログラムとは?

Health分野における技術革新は医療の効率化や精密・高度化を推進し、多様な医療課題の解決に貢献してきました。急速に進行する高齢化や女性の社会進出など、社会の状況が刻々と変化する中において、今後一層ニーズが多様化していくことが予想されています。

Plug and Play JapanのHelathプログラムではAI・ビッグデータ・センシング・ゲノム解析などの新技術を活用して、医療や健康に関わる課題に取り組んでいる世界各国の優れたスタートアップとともにヘルステック領域における新たなソリューションを創造しています。診断、治療、服薬管理、日々の健康管理などの普遍的な領域に加えて、高齢化社会特有の遠隔医療、在宅医療、介護支援、慢性疾患の治療といった領域、女性の社会進出に伴い近年大きな関心を集めているフェムテック領域にも注力しています。

*1 Plug and Play Japanのアクセラレータープログラムでは、企業パートナーの注力分野や技術ニーズに基づいて、「バーティカル」と呼ばれる業界テーマごとにスタートアップを採択している。2023年7月現在ではFintech(金融サービス), Insurtech(保険), Mobility(自動車・運輸・物流), Health(医療・製薬), Smart Cities(建設・不動産), New Materials(素材・化学), Energy(エネルギー), Food & Beverage(食品・飲料)の8バーティカルを運営。

採択スタートアップ紹介

1. エモスタ : 表情情報(感情)の定量化を実現できるAIの構築

会社概要

企業名:株式会社エモスタ

所在地:東京都中央区

代表者名:小川 修平氏

Website:https://emosta.com/

 

Keyword:#AI #コミュニケーション支援 #感情定量化

エモスタは、心理学者ポール・エクマンのFACS理論(Facial Action Coding System)に基づき、人の表情から7つの感情を93%の精度で検出する技術を開発しています。表情は感情を表すメディアで、人のコミュニケーションに不可欠です。エクマンは、感情を表す普遍的な表情があるという理論を提案しました。FACSとは、顔面の動作を符号化するシステムのことであり、人間の顔に現れる表情をAction Unit(AU)と呼ばれる様々な顔面筋の動作の有無の組み合わせで機械判別可能な形に符号化するための仕組みです。

同社の技術は、このを活用し、「怒り」 「軽蔑」「嫌悪」「恐れ」「喜び」「悲しみ」「驚き」「無表情」を読み取ることで、印象の定量的測定アルゴリズムや信頼形成度合いを評価するアルゴリズム、自己開示度合いの深さをはかる言語ライブラリ、セールストークの解析手法確立、組織のキーパーソン特定とコミュニケーション活性化の取り組み、研修におけるエンゲージメント測定手法の開発などの面で貢献してきました。

今後は、医師からの病状説明の際に患者の表情から理解度を読み取るなど、医療面での活用も期待されています。

2. ロゴスサイエンス : 認知行動療法を用いて心因性疾患やメンタルヘルスケアのプログラム医療機器の開発

会社概要

企業名:ロゴスサイエンス株式会社

所在地:東京都港区

代表者名:種村 秀輝氏

Website:https://logossjp.com/

 

Keyword:#SaMD #認知行動療法 #メンタルケア

ロゴスサイエンスは心因性EDなどメンタルヘルスに問題がある人向けに認知行動療法を用いた治療用アプリを開発しています。精神的なストレスやトラウマにより、神経に興奮が上手く伝達されないことでEDが起こると言われていますが、他人には相談しにくい内容であるために一人で抱え込んでしまい、より心理的なストレスを深めて症状が悪化するというケースも少なくありません。

同社は、早稲田大学応用脳科学研究所との共同研究に基づき、専門医の知見を取り入れながら、心療内科等の臨床場面で用いられている認知行動療法等をベースとしたメソッドを細かくアプリ内でプログラム化したことによって、ストレス関連疾患のパーソナルライズされたケアを実現しています。表面化している問題や困り感だけでなく、その背景にある利用者個人の生物・心理・社会的要因に着目して評価・分析し、タイプ分けをすることで、個々の状況に即した最適なプログラムが提供されるテーラーメイド性が最大の特徴です。2023年8月現在、心因性EDの治療を専門とするアプリは国内に競合がなく、非常に優位性が高い技術となっています。

3. 大阪ヒートクール : 温度を用いたひっかき錯覚システム「ThermoScratch」を開発

会社概要

企業名:大阪ヒートクール株式会社

所在地:大阪府箕面市

代表者名:伊庭野 健造

Website:https://www.osaka-heat-cool.com/

Keyword:#アトピー性皮膚炎 #温度刺激 #ペルチェ素子

大阪ヒートクールはサーマルグリル錯覚による痛覚刺激による痛覚疑似体験デバイスをアトピー性皮膚炎患者に提供しています。アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹を主な症状としています。かゆみは掻くことで一時的に抑えることができますが、その部位の皮膚が傷つき、更なる炎症をまねいたり、バリア機能が弱まることで、かゆみがさらに強まるという悪循環に陥ります。その結果、アトピー性皮膚炎が長引き、悪化する原因となります。

同社のコア技術は、皮膚へ熱さと冷たさを同時に与える、痛覚を刺激することができる半導体です。この痛覚刺激を利用すると、爪によるひっかきを防止し、アトピー性皮膚炎などで深刻な”かゆみのペイン”を皮膚ダメージなく解決できます。そのほか、月経痛に対する社会の理解を促進するため、現在月経痛体験デバイスも開発中です。筋電気刺激(EMS)を用いることで、月経時に生じる腹部の痛みを段階的に体験できるVR装置となっており、企業研修や学校教育などで活用が期待されています。

4. Dental Prediction : デジタルツイン技術を活用し、最先端医療をメタバース上で共有する医療支援事業を展開

会社概要

企業名:株式会社Dental Prediction

所在地:東京都北区

代表者名:宇野澤 元春

Website:https://www.denpre.co.jp/

Keyword:#歯科健康相談 #口腔機能維持 #医師トレーニング

Dental Predictionは、AR/VR技術を活用した医師向けトレーニングや、歯科医療支援を行っています。医療従事者のトレーニングは、質の高い医療を提供するためには不可欠ですが、従来のトレーニングはアナログな手法で行われており、症例数が少ない希少疾患や患者数が少ないへき地ではトレーニングの機会が乏しいことが課題となっています。

同社は、歯科領域を専門に、医師が3D技術を活用しいつでも・どこでも必要なトレーニングを提供できる仕組みを整えています。患者の口腔内のデータを基に、3Dプリンターを用いてトレーニングや患者説明に活用できる模型を作成することができます。加えて、最先端のXR技術を活用して「体験」に重きを置いたトレーニングサービスも展開しています。このサービスは、症例数が多く最先端の医療を展開する都内の医師による遠隔指導を可能とし、日本全体の歯科業界の技術・知見の向上に役立っています。さらに、同社はIBMのAIプラットフォームであるIBM Watsonを活用し、患者が医師に歯科関連の気になる症状をスマートフォンで相談し、症状に関連性の高い疾患をAIが歯科医師・歯科衛生士に提示する技術も開発しています。

5. INOPASE : ワイヤレス給電およびクローズドループを活用した植込み型神経刺激装置の開発

会社概要

企業名:株式会社INOPASE

所在地:東京都中央区

代表者名:杉本 宗優

Website:https://www.inopase.com/

 

Keyword:#ニューロモジュレーション #過活動膀胱 #てんかん

INOPASEは、過活動膀胱に伴う尿失禁の軽減を目的とした技術の開発を行っています。この技術は仙骨神経刺激療法を基に、排泄に関係する神経に持続的に電気刺激を与え、過活動膀胱や便失禁の症状の改善を図っています。本療法では、手術により刺激装置を体内に植え込みますが、従来の装置はサイズが大きいことが課題となっていました。

同社の開発する装置は、ワイヤレス給電技術を活用しているため、従来のものと比較し小型であり、低侵襲日帰り手術を可能としています。また、体内に植え込んだ装置が過活動膀胱をセンシングし、それに対してどの程度の神経刺激を行うと尿失禁等の疾患が軽減できるかを装置が判断するため、個別最適化された治療を実現しています。海外では技術開発が進んでいるものの、日本では未開の技術であるため、今後の活躍が期待できます。また、同社は治療が困難なてんかんの原生領域の正確な特定を可能とする脳神経刺激装置の開発も進めています。この技術は、フレキシブル薄膜電極とワイヤレス給電により、最長6ヶ月の脳波を記録することが可能であり、装置植込み後の早期の在宅復帰と、再手術を伴わない電気刺激療法への移行が可能となります。

6. Caira Surgical : 人工膝関節置換術に向けたソフトウェア、スキャニング、精密ナビゲーションシステムの開発

会社概要

企業名: Caira Surgical Corp

所在地:New York, USA

代表者名:Jon Greenwald氏

Website:https://www.cairasurgical.com/

 

Keyword:#膝関節置換術 #手術ナビゲーション #サージカルプレシジョン

Caira Surgicaは、人工関節置換術のための高度な手術用ナビゲーションとロボットを開発し、アクセシビリティ、ユーザビリティ、安全性を高めています。

中高年に多い膝の痛みを引き起こす変形性関節症の治療に役立つソリューションであり、高齢化が進む日本においては不可欠な技術となっています。関節症は遺伝子的な要因に加えて、使いすぎや体重負荷、外傷を契機に軟骨磨耗が起こり発症すると言われています。その中でも、変形性関節症とは、関節の間にある軟骨が擦り減ったことで滑らかに動かなくなり、関節の骨などが摩擦を起こして炎症を起こし、水がたまったりする病気です。

従来の変形性関節症の手術においては、膝関節の位置を特定する赤外線カメラを使用してきましたが、カメラやモニターの位置を考慮したポジショニングを行わなければならず、円滑な手術の妨げとなっていました。同社の技術は独自のレーダーシステム(Caira Radar Tracking)により前述の視線干渉を克服するとともに、AIにより術前計画・手術中のナビゲーションやデータ収集・術後の患者フォローアップを統合することで、患者の特性を正確に捉えながら円滑で安全な手術を実現します。

7. Illuminant Surgical : 画像誘導型手術用ナビゲーションシステムの開発

会社概要

企業名:Illuminant Surgical, Inc.

所在地: Massachusetts, USA

代表者名:Eldrick Millares

Website:https://www.illuminant.ai/

 

Keyword:#AR #画像手術ナビゲーション #リアルタイムフィードバック

Illuminant Surgicalは、患者の皮膚に直接ビジュアルガイダンスを投影し、手術中の重要な瞬間に外科医の視線の先に重要な情報を与えることで、安全かつ効率的に手術を行えるよう支援しています。脊椎脊髄手術においては、患者の解剖学情報と術中の画像情報との位置合わせ(レジストレーション)を行う必要があります。このレジストレーションをいかに正確に行うかが手術の肝となります。しかし、術前画像の時の体位と術中の体位の違いから、レジストレーションが困難なケースも少なくありません。

同社の技術は、外科医が手術を行う際に、CTやMRI等の医療画像から取得した個々の患者の体内の深い解剖学的構造と手術器具の軌道を、患者の皮膚上に直接表示することを可能とします。それにより、体への負担を最小限にする低侵襲技術を推進し、脊椎脊髄手術における新しい時代を切り開くことが期待されます。

8. DirectSync Surgical : 自然の骨形成経路を利用して骨を癒す "スマートインプラント

会社概要

企業名:DirectSync Surgical

所在地: Kansas, USA

代表者名:Zygmunt Porada

Website:https://www.directsyncsurg.com/

 

Keyword:#骨伝導圧電生体材料 #スマートインプラント #直流電気刺激パルス

DirectSync Surgicalは、人体の力学的バイオフィードバックシステムを活用し、電池や外部刺激装置を必要とせず、負荷を感知して主要移植部位の骨の成長を電気的に刺激する完全統合型スマートインプラントを設計しています。

バイオフィードバックとは、個人の単独あるいは複数の生理反応に関する情報を視覚・聴覚・触覚など知覚可能な刺激に変換して本人に呈示することにより、生理心理学的な観点から状態を把握し、自己調節を促進しようとするアプローチのことをいいます。

同社の技術は、患者が歩くたびに小さな直流電気刺激のパルスを発生させ、骨の自然治癒特性を模倣して治癒を促進させることができます。加えて、ワイヤレスで患者の回復進捗や日常活動関連データを医師に送信することで、治療管理の改善や、必要な場合には再手術を促すなど、遠隔モニタリングの機能も果たします。新世代のスマートインプラントとも言えるこの技術は、再生医療の新しい可能性を生み出します。

9. ZygoFix : 低侵襲スクリューレス外来植込み型脊椎固定術システムの開発

会社概要

企業名:ZygoFix Ltd.

所在地:Misgav Regional Council, Israel

代表者名:Ofer Levy

Website:https://www.zygofix.com/

 

Keyword:#スクリューレスインプラント #脊椎固定システム #3Dプリンティング

ZygoFixは、ネジなしで脊椎固定と脊椎安定を実現する小型3Dプリントインプラントを開発している会社です。神経が圧迫されることで起こるしびれや激しい痛みの治療として、神経を圧迫している部分を切除することで、しびれや痛みを緩和する治療があります。その治療を行った際、脊椎を安定させる方法として用いられるのが、脊椎固定術です。神経を圧迫している部分を切除した後、患者本人の骨(移植骨)や、人工骨を挿入して固定し、さらに、プレートやロッド、スクリューを用いて脊椎の安定性を高めます。しかし、従来のスクリュー等は患者の解剖学的構造に完全にフィットすることが難しいことに加え、患者の特性により形やサイズが異なることから病院の在庫管理面でも負担が大きいという課題があります。

同社が開発している技術はユニークな3Dプリントインプラントで、従来のスクリュー等とは異なり、脊椎の自然な解剖学的構造を利用して脊椎を安定化させることが可能です。硬い要素と曲げられる要素を組み合わせることで、患者の解剖学的構造に正確に適合し、負荷を最小限に抑えながら、脊椎の安定を実現しています。

Summitのご案内

Summer/Fall 2023 Batchの採択スタートアップが登壇する「Japan Summit Summer/Fall 2023」は、2023年9月14日〜15日にかけて虎ノ門ヒルズにて開催予定です。どなたでもご参加いただけるイベントとなっておりますので、ぜひご来場ください。

Summer/Fall 2023 Batchに採択された他のスタートアップ詳細については、こちらのブログで随時掲載していきます。お楽しみに!

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