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Startup School #7 | 顧客とマーケットの考え方

2021/12/01


Zak Murase

Executive Advisor, Plug and Play Japan


前回のブログで事業アイデアの見つけ方について書きました。アイデアが固まったらいよいよプロダクトを作り始めるわけですが、まずはその事業アイデアがどのような顧客をターゲットにしているのかをしっかりと考える必要があります。

これからプロダクトを作ろうとする時に、まずあなたはそのプロダクトを誰が使うのかを想像するでしょう。C(一般消費者)向けであれB(法人)向けであれ、その顧客がどんな問題を抱えていて、それをあなたのプロダクトがどのように解決するのかきちっと定義することが重要です。これがスタートアップの肝であると言っても過言ではありません。簡単なようですが、実はこれが一番難しいところなのです。

「Make something people want(―人々が欲しがるものを作れ)」
これは著名なスタートアップアクセラレータであるYコンビネーターの創業者、ポール・グレアムの有名な言葉です。プロダクトが失敗するのは、機能が十分でなかったり、使い勝手が悪かったりということ以前に、「顧客がそれを欲していなかった」というのが一番の原因です。

顧客が本当に欲しがっているものを理解するのは簡単なことではありません。
かのスティーブ・ジョブスも言っていたように、多くの場合、顧客自身が何を欲しがっているのかがわかっていないことが多いのですから。プロダクトを作る時に、仮説としてどんな顧客のどんな問題を解決するのかを考えますが、それは最初の段階ではあくまでも仮説であって、それが本当に顧客が欲しがっているものかどうかは実際にプロダクトを顧客に使ってもらわないとわかりません。プロトタイプを作りながらひたすら顧客の声を聞き、プロダクトの使われ方を徹底的に観察し、新たに仮説を設定し頻繁にプロダクトをアップデートさせていく、という愚直な仮説検証のサイクルを繰り返すことでのみ顧客の本当のニーズを理解することができるのです。

これはソフトウェアに限った話ではありません。ハードウェアのようになかなかやり直しがきかないプロダクトであっても、プロトタイピングを工夫することである程度の仮説検証は可能です。

スティーブ・ジョブスはたまたまiPhoneをヒットさせたわけではありません。古くは失敗したNewtonに遡り、そこからiPodに至るまでたくさんのプロダクトのリリースを重ねながら顧客をとことん観察し、テクノロジーの変化点を絶妙なタイミングで捉えて出来たのがiPhoneだったのです。

顧客とマーケット

まずはあなたが最初に狙っている顧客像をできるだけ細かく定義しましょう。
もしかしたらそれはものすごくニッチなマーケットをターゲットにしているように思えるかもしれません。でも重要なのは、まずその限定された顧客層に熱狂的に受け入れてもらえるようなプロダクトを作ることなのです。
もしあなたが今作っているプロダクトがそこまで顧客に熱狂的に受け入れられていないのであれば、むしろもっとターゲットとする顧客像を絞った方がいいのかもしれません。とにかくその限定された顧客層に深く刺さるプロダクトを作ることが重要です。そこで刺さるプロダクトが提供できた時に、あなたのプロダクトの持つ本当の価値が見えてきます。それができるまではあまりマーケットのことなどを考えすぎない方がいいのかもしれません。

ここは人によって考え方が違うところですが、私はまずは顧客のニーズありき、次にマーケットだと思っています。なぜかというと、ニーズは作ることはできませんが、マーケットは新しく作ることができるからです。既にあるマーケットにこだわってプロダクトのアイデアを狭めてしまうより、とにかくどんなマーケットであれターゲットとする顧客に向き合ってニーズを満たすものを作りさえすれば、マーケットはそこから広げていくことができると考えるからです。

VCから資金調達するということ

いよいよ顧客に刺さるプロダクトができれば、次にどのようにビジネスをスケールさせていくのか、そしてマーケットを広げていくのかを考えます。
必ずしも全てのビジネスが大きなマーケットを狙わなければいけないわけではありません。ニッチなマーケットでも立派に利益を出して成功しているビジネスはたくさんあります。でもスタートアップとスモールビジネスの違いというのは、スタートアップがテクノロジーを梃子にビジネスを指数関数的に成長させていくものだということです。

スタートアップに対して投資をするベンチャーキャピタル(VC)にピッチをすると、必ずマーケットについて聞かれます。どれくらいの市場規模があるのか?そのうちどこまでリーチできるのか?なぜこれがVCにとって重要なのかというと、VCとして投資対象とするためには、ある程度大きなマーケットを狙うことができるポテンシャルがないと、VCのビジネスモデル的に成り立たないからです。リスクの大きなビジネスに数多く投資する中で、ごく僅かな数のスタートアップが他の失敗を凌駕する大きな成功を収めることで成り立つビジネスモデルなのです。

なので、VCから資金を調達してビジネスをスケールさせようと思うのであれば、大きなマーケットを狙うことは必須になります。もしあなたのプロダクトが既にある大きなマーケット向けのものなのであれば、ピッチする時にはいかにあなたのプロダクトが差別化されていて、そのマーケットの中のどんな顧客層を取りにいけるのか、どうやってスケールさせていくのか、そしてどういったプロダクト展開が可能なのかというストーリーを描きましょう。
これがクリアに描けていて、トラクション(既にプロダクトが受け入れられていて、成長の兆しが数字で見せられる)があれば資金の調達には苦労しません。

逆にやるべきではないのが、既にある大きなマーケットの数字を持ってきて、そのマーケットの例えば1%のシェアを取れればこれだけの規模のビジネスになる、といったトップダウンのストーリーを描くことです。既にある大きなマーケットというのは、多くの場合リソースが豊富な巨大なプレーヤーがゼロサムゲームを繰り広げるレッドオーシャンであり、1%のシェアを取ることさえ至難の技だからです。

なぜそれができるのかというボトムアップのストーリーが必要です。

マーケットの広げ方

もし現在のあなたのプロダクトがそこまで大きなマーケットの顧客を相手にしていないのであれば、いかにそれを広げられるのかというストーリーを描く必要があります。やり方は大きく分けて2つあります。縦に広げるのか、横に広げるのかです。

縦に広げるというのは、同じ顧客層に対して既に提供しているプロダクトに加えて、補完的な、あるいは新しい機能またはプロダクトを提供することで顧客単価を上げることです。Amazonは本で始めたビジネスですが、今ではありとあらゆるものを売るようになっています。マイクロソフトはWindowsに加えてOfficeを提供することで新しいビジネスの柱としました。

横に広げるというのは、顧客層そのものを広げることです。今のプロダクトを使ってくれている顧客層に近いが、より広い顧客層をターゲットにしたり、あるいは海外展開などによってビジネスの対象とする地域を広げたり、といったことです。

大抵の場合はこの縦横を組み合わせて市場を広げていくわけですが、スタートアップの初期の限られたリソースでは、できることは限られてきます。今あるプロダクトのどんなところが顧客に刺さっているのかを理解した上で、そこを最も生かせる、レバレッジを効かせることができるようなエリアを考えましょう。それが縦であれ横であれ、あまり大きなリソースをかけずにある程度マーケットをテストできることが重要です。そこで手応えを得られれば、そのストーリーをVCにピッチして資金を調達することで新たな成長を目指すことができます。

変化に備えること

スタートアップとしてもう1つ重要なことは、常に変化に適応する準備をしておくことです。
マーケットを広げていく中で思いもしない顧客層に刺さるプロダクトができるかもしれません。コロナのような予想外のイベントもまたいつ起こるかわかりません。そうなった時に過去のしがらみに囚われず、思い切った舵取りが出来るかどうかが成否を分けることもあります。
そうした変化に素早く対応できることがスタートアップの強みでもあります。
顧客もマーケットも常に変化するものです。成功している起業家は自分の信じる道にあまり囚われ過ぎることなく、冷静に顧客とマーケットを観察しながら自らも変化していける、またそれを楽しめるくらいの余裕があるものです。

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